8.疲労破壊に影響する因子|材料強度学
疲労破壊に影響する因子
疲労破壊に影響する因子はたくさん考えられますが、ここでは代表的な因子に絞りってリストしてみました。それぞれ説明していきます。
表面粗さの影響
亀裂発生のメカニズムについては6.疲労破壊の項で説明した通り、表面の微小な凹凸が起点となって亀裂へと成長していきますので、逆に表面に凹凸がなければ亀裂が発生しにくくなると言えます。材料の硬さにもよりますが、表面を鏡面仕上げにすると大幅に疲労強度が向上することもあります。
切欠きなどの応力集中
部材表面に切欠きになる形状があると、その部位に過大な応力が発生(応力集中)して疲労強度が大幅に低下することがあります。例えば、溝や形状の急変、あるいは溶接ビードの止端部などがその例です。応力集中の疲労強度への影響度合いは材料の硬さに依存します。同じ応力集中度合いでも、硬い材料ですと大きく疲労強度が低下しますが、軟鋼ですとそれほど低下しません。これは切欠き係数と応力集中係数の関係で説明できます。詳しくは材料力学講座の応力集中の項を参照ください。
ちなみに鋳鉄などは、マクロ的な切欠き形状があろうとなかかろうと疲労強度にはあまり影響しないことが知られています。これは金属組織内のカーボンがミクロ的な切欠きの働きをするためです。よって鋳鉄は強度部材として使うべきではありません。この特性を改善すべく、カーボンを球状化して強度を向上させたものがFCDです。
寸法効果と呼ばれる部材の物理的大きさ
曲げやねじり、あるいは切欠きがある場合(つまり応力分布に勾配がある場合)は、物理的な部材寸法が大きくなるほど疲労強度が低下します。
図8-1は厚さの異なる板A,Bに曲げモーメントを加えた時の応力分布を模式的に表しています。この時、部材表面の応力σは両者で同じになるようにしています。普通に考えれば、材質が同じで表面応力が同じなら疲労強度は同じだと考えるでしょう。しかし、AとBでは部材内部の応力勾配が異なります。Bの方が高い応力受ける面積(体積)が大きいため、金属組織内の欠陥が存在する確率が高くなります。疲労は局所的な強度に影響されやすく最も弱いところに亀裂が発生するため、欠陥などにより強度的に弱いところが存在する確率が高くなれば全体の疲労強度が落ちてしまうというわけです。
およその値ですが、直径100mmの試験片の疲労強度は直径10mmの試験片に比べて10〜20%低下すると言われています。
熱や腐食などの環境
常温では疲労限度が存在する鉄鋼材料でも高温環境では疲労限度が存在せず、どこまで繰り返し回数を増してもS-N線図は水平になりません。
また、腐食環境にさらされると、亀裂の進展が促進される場合があります。この現象は腐食疲労と呼ばれます。
残留応力
亀裂進行のメカニズムは、引張り応力による亀裂開口、圧縮応力による亀裂閉口するというサイクルの繰り返しですので、外力以外に引張りの残留応力が存在すると、少ない引張り応力で亀裂が開口てしまいます。したがって、部材表面に引張りの残留応力があると疲労強度は低下してしまいます。溶接などによって引張り残留応力が溶接部に存在する場合には注意が必要です。溶接止端部は形状急変による応力集中も伴うのでさらに疲労強度は低下します。
逆に圧縮の残留応力は疲労強度を向上させます。これをうまく利用した表面処理方法があります。代表的なものとして、材料表面にたくさんの小さな鉄球を打ちつけるにショットピーニング、ローラーを押しつけて表面層だけ圧縮するロール加工などがあります。この処理により、部材表面が圧縮され、加工硬化および圧縮の残留応力が発生し、疲労強度の向上が見込めます。また高周波焼入れ、侵炭、窒化などの処理も、材料の硬さを向上させると共に、表面に圧縮の残留応力を発生させ、疲労強度を向上させています。
ただし、残留応力は応力の繰り返しにより緩和してしまうことがあります。繰り返しの応力レベルにもよりますが、降伏応力を超える過大な応力による疲労(低サイクル疲労)では繰り返しと共に残留応力が緩和してしまうため、残留応力の影響をあまり受けません。逆に疲労限度付近の高サイクル疲労の場合は、応力緩和の程度も少ないため残留応力の影響を受けやすくなります。
平均応力
平均応力は残留応力と基本的に同じ効果で、引張りの平均応力は疲労強度を低下させ、圧縮の平均応力は疲労強度を向上させる効果があります。平均応力は外力によりコントロールすることができますので、疲労試験により詳細に調べることができます。この平均応力の効果も含めて疲労試験を実施した結果をもとに、疲労強度を評価する方法(疲労限度線図)があります。これについては次項で詳しく説明していきます。
応力振幅
S-N曲線は縦軸に応力振幅をとっていることから解るように、最も疲労強度に影響する因子です。応力振幅をしっかりコントロールして低く抑えることができれば疲労破壊を防ぐことができます。如何にして応力振幅を低く抑えるかが設計のノウハウです。これには材料力学のような力学的考え方がベースになり、同じ断面の構造部材を使用したとしても、その使い方で発生する応力振幅をコントロールすることができます。また、細部の応力集中部に関してもその緩和方法には多数のノウハウがあります。
構造設計の基本方針としては、まず応力分布がなるべく均一になる構造を検討することだと思います。ある部位に応力が集まるような構造は効率(重量に対する強度)が悪い上、破損のリスクが高いです。まず、構造全体で荷重を受け持つ構造を考え、細部の応力集中も緩和させる形状を検討すべきです。しかしながら実際の設計ではいろいろな制約が多いために簡単にはいきませんが・・、そういった観点を持って設計検討することで、より良い構造になるのではないかと考えます。