10.疲労限度線図による疲労強度評価|材料強度学
疲労限度線図を用いた疲労強度評価の具体的手順について説明します。
応力波形の分析
疲労限度線図を描くには、応力振幅と平均応力が必要です。それらを計算する元になるものが、応力波形から得られる最大応力σmaxと最小応力σminです。
図10-1に応力の時系列波形の例を示します。これは実験により測定された値でも、時刻歴の解析を行った解析値でも構いません。この波形から最も大きな応力を示すポイントと最も小さい応力を示すポイントを特定し、それぞれ最大応力σmax、最小応力σminとして値を拾います。
σmaxとσminの値から応力振幅σa、平均応力σmを計算します。計算式については7.S-N曲線の項で説明しましたが、改めて以下に示します。
・・・(10-1)
・・・(10-2)
疲労限度線図による疲労強度評価
上記では一つの計測点について説明しましたが、評価するポイントが複数ある場合にはすべてにおいて同様の処理をして、評価点ごとの応力振幅σa、平均応力σmを計算しておきます。
以下の図10-2では評価点A〜Eまでの5点について評価する場合を示します。黄色い丸が評価点における応力値を示しています。図のように、評価点それぞれの応力値は疲労限度線図上で点で表されます。これらの点がどのようなエリアに配置されるかで平均応力を考慮した疲労強度を評価することができます。
A〜Eの評価点における強度評価の判断について説明します。今回疲労限度線(図中赤線)は両振りの疲労限度を基準にしています。
評価点A
疲労破壊、塑性変形、共に起こらないと考えられ、問題のない強度と言えます。負荷モードとしては圧縮側に若干偏った部分両振りです。
評価点B
疲労破壊、塑性変形、共に起こらないと考えられ、問題のない強度と言えます。負荷モードとしては引張り側に偏った部分両振りです。
評価点C
疲労限度線の上に位置していますので疲労破壊が起こる恐れがあります。しかし、降伏限度内であるので塑性変形はしません。疲労強度的に問題があります。負荷モードは縦軸ライン上ですので完全両振りです。
評価点D
疲労破壊は起こらないと思われますが、降伏応力を超えています※ので塑性変形してしまいます。強度の面で問題があります。負荷モードは引張り側に偏った部分片振りです。
評価点E
疲労限度線の上に位置し、かつ降伏応力を超えています※ので、疲労破壊、塑性変形が起こってしまうと考えられます。評価線のかなり上に位置していますので強度上の問題は大きいです。直ちに対策を施す必要があります。負荷モードは斜め45°のライン上ですので完全片振りです。
その他、補足
すべての評価点の応力値が原点付近に集まってしまう場合、強度上の問題は全くありませんが別な意味で問題があります。それはコストや重量の観点。一般にそのような状況の場合、過剰品質であると言えます。板厚を見直して剛性を落とすなどして適切な剛性になるよう再検討する必要があります。
注意事項
疲労限度線図を用いる場合の注意事項
本手法は応力波形の最大値と最小値のみピックアップして評価するので非常に簡便ではありますが、正確な評価ではないことに注意する必要があります。一般には安全側の評価になるので問題になることは少ないかもしませんが、詳細に寿命を予測したい場合は次項以降で説明する応力頻度をカウントする手法などを採用する必要があります。
(※)降伏応力を超えた場合の評価について
ひずみゲージで測定した場合あるいは線形の構造解析を実施した場合、降伏応力を超えても線形に応力が増加していくかのように検出されますが、実際には降伏を超えると塑性変形を起こすため大きな応力にはなりません。したがって値そのものにはあまり意味がありません。
降伏応力を超えた応力や寿命を評価したい場合にはひずみを読みとり、応力ひずみ線図から応力を予測したり、低サイクル疲労を評価するためのひずみ振幅と繰り返し数の関係を参照するなどして寿命を予測する必要があります。