TOP->CAE技術->機械工学->材料強度学

5.応力腐食割れ・遅れ破壊|材料強度学

応力腐食割れとは

応力腐食割れという現象は、部材に応力が加わった状態で腐食環境に置かれたとき、腐食環境にない場合より急速に亀裂が発生、成長して破断に至る現象です。腐食環境とは薬品中などもそうですが、身近なところでは海水なども応力腐食割れの原因となります。特に海水にさらされるオーステナイト系ステンレスで問題になることが多いと言われます。

また、応力腐食割れは通常静的な応力状態で起こりますが、時間的に変動する応力が加わる場合には腐食疲労と呼ばれ、腐食環境にない場合に比べて早く疲労亀裂が進行してしまう現象です。

応力腐食割れの原因

腐食の原因は電気化学的な作用で、金属が金属イオンとなり溶液中に溶け出してしまうことで起こります。応力は外部から加わるものもあれば、溶接による残留応力が原因になることもあります。応力腐食割れを起こす金属としては、炭素鋼、アルミニウム合金、銅合金など、ほとんどの合金で発生します。しかし、純金属の場合には発生しないという特徴があります。

応力腐食割れが起こりやすい環境と金属材料の組み合わせについては、以下のページが参考になります。

遅れ破壊とは

高い応力が加わっている状況で、わずかに腐食されると急激な破断が起きる場合があります。これはある期間経ってから突然発生するので遅れ破壊と呼ばれます。高張力ボルトが突然破断する場合は遅れ破壊の可能性が考えられます。これも応力腐食割れの一種と考えられます。

遅れ破壊の原因

遅れ破壊の原因は応力腐食割れとは若干異なり、水素による脆化(水素脆化)が原因と言われています。そのメカニズムは諸説あってよく解っていないことも多いようです。一般には、水素原子が金属組織内に外部から侵入、拡散して、比較的粒界に多く存在する欠陥の微小空間において水素分子になり、大きなガス圧を発生させて破壊に至ってしまうという水素ガス面圧説が有力のようです。

対策

応力腐食割れや遅れ破壊は、腐食環境材料の組み合わせと引張応力の相乗的な作用で発生します。したがって、そのどれかを対策することで発生を防ぐことができると考えられます。しかし、例えば外力を完全に取り除いたとしても、溶接や加工時に残った残留応力が影響したり、熱環境の変化による熱応力が発生したりと、その影響を真に取り除くことは困難です。まずは腐食環境から材料を守る方策を検討すべきです。もしくは腐食環境と材料の組み合わせを検討し、より腐食しづらい材料を選定するなどの検討をする必要があります。

機械設計技術者・CAE技術者として

応力腐食割れや遅れ破壊などは腐食環境と応力の組み合わせで発生するため、FEM解析だけで分析することは困難と思われます。例えFEMで解析しても、部材に加わる応力が許容応力以下であった場合、壊れるはずがないという結論になるだけで真の原因を特定することができないからです。

大事なことは、こういった破壊形態もあるのだということを理解しておくことです。そういったことが頭の片隅に入っていれば、静的な応力、あるいは応力振幅が小さいにも関わらず破壊に至ってしまった事例の解析などを担当したとしても、無駄にFEM解析を実施することなく、まずその装置の置かれた環境の影響について調査するというアクションをすぐにとることができるようになります。

また、腐食環境に置かれる装置を新規に設計する場合には、腐食への対応を事前に織り込むことができます。今では設計標準やFMEAなどが整備されているため、事前にしっかり検討されているかもしれません。しかし、環境の影響が絡む破壊形態は率としてもそう多くはありませんので検討漏れがあるかもしれません。改めてチェックしてみてはいかがでしょうか。もしかしたら、強度不足などで処理されている事例もあるのではないでしょうか。

[前へ] | [次へ]