9.疲労限度線図|材料強度学
疲労限度線図
前項で疲労強度は平均応力の影響を受けると説明しましたが、S-N曲線では平均応力の影響を読み取ることができません。実際の機械構造物の応力波形は平均応力が0でない場合も多くあり、そのような状況での疲労強度を評価するために平均応力の影響を考慮した疲労限度線図(耐久限度線図ともいう)が用いられます。
図9-1に疲労限度線図の例を示します。疲労限度線図では横軸に平均応力、縦軸に応力振幅をとります。評価対象の応力波形から平均応力、応力振幅を計算し、このグラフにプロットすることで平均応力の影響を加味した疲労強度を評価することができます。
各評価線について説明します。
降伏限界
図中の三角の青い線は降伏限界であり、縦軸と横軸の正側に交わるポイントσYは引張り側の降伏応力、-σYは圧縮側の降伏応力を示します。これらの点を結んだ三角のエリア内であれば材料が降伏しないことを表しています。
疲労限度線
斜めの赤い線は疲労限度線と呼ばれます。これは横軸に平均応力をとり、同じ時間強度を示す応力振幅を結んだ線と言えます。図9-1では縦軸に交わる点を両振り疲労限度としていますので、この線上はすべて疲労限度ということになります。平均応力は応力振幅ほどではありませんが疲労強度に影響し、正の平均応力は疲労強度を低下させ、逆に負の平均応力は疲労強度を向上させる働きがあります。
これにより評価対象の応力波形から平均応力、応力振幅を計算してグラフにプロットした時、疲労限度線以下であれば疲労破壊を起こさないと判断することができます。
疲労限度線の描き方には数種の方法がありますが、これについては後で説明します。
疲労破壊しない領域
降伏限度内で疲労限度線以下、つまり図中の網掛けのエリアに評価する応力値がプロットされれば、塑性変形や疲労破壊が起こらないと評価することができます。部材の強度を評価する場合には、まずこのエリアに入るかどうかを確認することが重要です。
もちろん、実際の機械構造物には稼働中の負荷にバラツキ等もありますので、絶対に塑性変形や疲労破壊が起こらないと保証することはできませんが・・。要はどこで安全率を取るかだと思いますが、一般的には降伏限度や疲労限度線をバラツキの下限で設定します。
応力比と疲労限度線図の関係
S-N曲線の項で応力比について説明しましたが、疲労限度線図上のエリアと応力比の関係について見てみます。
R=-1の場合は完全両振り(つまり平均応力=0)であるので、測定値を疲労限度線図のグラフ上で見ると縦軸ライン上にプロットされます。R=0およびR=-∞の場合は完全片振りで、グラフの横軸に対して45°のライン上(図では点線で表示)、R<-1および-1<R<0の場合は部分両振りとなり、45°の点線より上のエリア、R>0の場合は部分片振りとなり45°ラインの下のエリアにそれぞれプロットされます。
特に完全両振りのR=-1のとき、完全片振りのR=0および-∞の状態が強度評価上非常に重要です。扱う製品によりいろいろなパターンが考えられますが、FEMで簡易的に強度評価する場合には、完全両振り、完全片振りのどちらかに近似して強度評価することが多いと思います。
疲労限度線の種類
疲労限度線はその書き方に数種の方法があります。それぞれに考え方に特徴があり、強度の評価結果も異なってきます。取り扱う製品や材料の特性などを考慮してどの方法を採用するかを決定した方が良いと考えます。
主な疲労限度線
- グッドマン線 (Goodman線)
- 修正グッドマン線 (修正Goodman線)
- ゲルバー線 (Gerber線)
- ゾーダーベルク線 (Soderberg線)
σY:降伏応力、σB:引張強さ、σT:真破断応力
それぞれ簡単に説明していきます。
グッドマン線 (Goodman線)
最も基本となる線です。グラフ縦軸と交わる点に両振り疲労限度、横軸と交わる点として真破断応力を採用し、それぞれを直線で結びます。鉄鋼材料では、ほぼこの線上に乗ると言われています。
グッドマン線を式で書くと式(9-1)のようになります。
・・・(9-1)
σa:応力振幅、σw:両振り疲労限度、σm:平均応力、σT:真破断応力
修正グッドマン線 (修正Goodman線)
グッドマン線に対して横軸と交わる点を引張強さσBに変更したものです。グッドマン線に対して内側に位置しますので安全側の評価となります。
・・・(9-2)
σa:応力振幅、σw:両振り疲労限度、σm:平均応力、σB:引張強さ
ゲルバー線 (Gerber線)
横軸と交わる点が引張強さσBなのは修正グッドマン線と同じですが、直線ではなく曲線になるように2乗されているのが特徴です。
・・・(9-3)
σa:応力振幅、σw:両振り疲労限度、σm:平均応力、σB:引張強さ
ゾーダーベルク線 (Soderberg線)
横軸と交わる点が降伏応力σYになっており、最も安全側の評価となる評価線です。
・・・(9-4)
σa:応力振幅、σw:両振り疲労限度、σm:平均応力、σY:降伏応力
縦軸と交わる点について
グラフ縦軸と交わる点はこれまですべて両振りに疲労限度を用いていましたが、これ以外に、ある時間強度を用いて線を引く場合もあります。製品の寿命を考え、疲労限度(一般に10^7程度)までの繰り返し回数が必要ない場合、設計上必要な繰り返し回数で評価するためです。この場合、疲労限度線ではなく、等時間強度線などと呼ぶのが適切かもしれません。また、部材の切欠きを考慮して両振り疲労限度を切欠き係数で除した値を用いる場合もあります。
いずれにしても、これらの評価線は各社のノウハウが多数あると思いますので、扱う製品、材料、応力の計測方法、さらには疲労試験の結果などから慎重に決定する必要があると考えます。