6.疲労破壊|材料強度学
疲労破壊とは
疲労破壊とは、時間的に変動する荷重によって発生した亀裂が、繰り返しを重ねるごとに徐々に進行して破壊に至る現象です。一般に破壊までの繰り返し回数が10^4回以下を低サイクル疲労、それ以上を高サイクル疲労と分類されています。ただしその繰り返し回数の閾値は明瞭ではなく10^4〜10^5程度で分類することが多いようです。2項でも書きましたが、機械構造物の80〜90%は疲労破壊が関係していると言われているため、疲労強度に関しては特に十分検討する必要があります。
疲労破壊は静的な引張強さや降伏応力よりもかなり低い応力でも発生します。したがって繰り返し荷重を長期間受ける部材を設計する場合には、その応力レベルを十分低く設定する必要があります。どのような変動応力に対して、どの程度の応力レベルしたらよいのか等についてはたくさんのノウハウがありますが、ここでは一般的な考え方について説明していきます。
疲労破面の特徴
疲労破面では、マクロ的にはビーチマーク、ミクロ的にはストライエーションと呼ばれる縞模様が観察されることが特徴です。ビーチマークは断続的な変動荷重を受ける場合に生じ、通常目に見えるスケールの模様です。一方、ストライエーションはミクロ的なサイズの模様であり、1つの縞模様は1負荷サイクルでの亀裂進展量に対応すると言われています。したがって模様の数を数えることでどの程度のサイクルで破壊に至ったのかを大まかに推定することができます。また模様の間隔は応力の大小に関係しているため、どの程度の応力が加わっていたのかについても推定することが可能です(実際に発生していた応力値をそのものを推定するのは非常に困難ですが、相対的な応力の大小を大まかに判断することはできます)。
電子顕微鏡による破面の写真は以下のホームページが参考になります。
亀裂進展のメカニズム
亀裂は通常、部材表面のわずかな傷や溝などの凹凸や形状の急変などによる応力集中部が起点となって生じることが多いです。亀裂の発生様式には多くの種類がありますが、最も代表的な様式はすべり変形によるものとされています。すべり変形を模式的に表したものが図6-1です。
すべり変形
すべり変形とは、図6-1のようにちょうどトランプの束を横から押して個々のカードが滑って変形するような状態をいいます。応力軸に対して45°の角度になるのはせん断応力が最も大きくなる角度だからです。
引張りおよび圧縮応力が繰り返されるとすべり変形が蓄積し、やがて入込みと呼ばれるくぼみと、突出しと呼ばれる出張りが発生して部材表面が荒れてきます。これが応力集中となって亀裂の起点となります。
すべり変形による亀裂進展過程はその特徴から第T段階と第U段階に分類されます(さらに細かく分類される場合もあります)。それぞれ簡単に説明します。
第T段階
部材表面のすべり変形によって亀裂が発生した場合、垂直応力の方向に対して45°の角度で亀裂が進展していきます。これは前述のようにすべり変形がせん断応力に関係しているためです。このように45°傾いた方向(すべり面)に沿って亀裂が進展する過程を第T段階と呼びます。図6-1中の赤い線が亀裂を表しており、左側の太線が部材表面と考えてください。
第U段階
第U段階では第T段階から徐々に亀裂の角度が応力軸に垂直な方向に変化し、亀裂が開いたり閉じたりを繰り返しながら進展していきます。この過程でストライエーション模様が形成されます。
ちなみに、すべり変形以外の様式による亀裂発生の場合、第T段階がなく、直ちに第U段階に入るのが一般的です。