12.サイクルカウント法|材料強度学
サイクルカウントとは
実動荷重下における応力あるいはひずみの時系列データから、疲労被害に換算できる形式に変換することをサイクルカウントと呼びます。サイクルカウントの手法には、ピークカウント法、レベルクロッシングカウント法、ミーンクロッシングカウント法、レンジカウント法、レンジペアカウント法、レインフロー法など、さまざまな手法が提案されています。いずれも疲労寿命を推定するために必要なひずみまたは応力の振幅とその頻度情報を抽出することが目的ですが、その手法がそれぞれ異なります。
本項では最も材料のヒステリシス曲線との対応が完全で、疲労寿命予測の標準的なサイクルカウント方法であるレインフロー法について説明します。
レインフロー法 (Rain Flow Method)
レインフロー法は日本語名では”雨だれ法”とも呼ばれまして、まさしく屋根を流れる雨水に例えて説明されることが多いです。しかし本質的に金属のひずみ挙動と雨水の流れとは何の関係もないことに注意する必要があります。あくまで説明上便利なため、雨水の流れに例えているに過ぎません。レインフロー法と同じ結果を得るP/V差法という手法もあります。
さて、レインフロー法によるサイクルカウント方法について簡単に説明します。まず図12-1に、ひずみまたは応力の時系列波形を青線で示します。通常横軸に時間軸を取ることが多いですが、ここでは下向きに時間軸、横軸にひずみ又は応力を取っているので注意してください。
説明上、この時系列波形の尖頭値(とがった先の意味)に0,1,2,3,・・・,9と番号を振ります。この時系列波形を多重になった屋根構造に見立てて、あたかも屋根の付け根の位置に水源を置いたかのように水が流れる様子をイメージします。
水の流れには次の基本法則が適用されます。
流れの基本法則
- 水は屋根の付け根の水源から番号の順に流れ始める。
- 屋根の軒まで来ても、後で示す流れが止まる条件によって流れが止まるまで、下段の屋根に流れ落ちて再び流れ始める。
- 流れが止まってから次の番号の水源から再び水が流れ始める。
流れには右向き流れと左向きが流れがあります。右向き流れとは図中の0,1,3のように右方向に流れる流れ。左向き流れとは例えば3,4,6,8のような左方向の流れです。
次に流れが止まる条件を以下に示します。
流れが止まる条件
- 右向き流れの場合、その出発点の値よりも、もっと左側に次の右向き流れの出発点がある場合
- 例えば0からの流れで1から流れ落ちるとき、次の右向き流れの出発点である2は0よりも右側にあるのでそのまま流れ落ちますが、3においては次の右向き流れの出発点4は0よりも左側にあるので、そこで流れが止まります。
- 屋根の一部にすでに水が流れていた場合
- 例えば2からの流れは、1から落ちてきた流れですでに濡れているため、1'で流れが止まります。
※右向き流れについて説明しましたが、左向き流れについても同様です(右と左を入れ替えて読む)。
振幅は以下の条件でカウントします。基本的にこの波形処理方法では半サイクル分の全振幅がカウントされます。
振幅、頻度のカウント方法
- 流れが止まる条件に合致した場合、あるいは流れが止められずに底なしで流れ落ちる場合、その水が流れた横方向の長さを測って半サイクル分の波の全振幅とする。
- 全振幅の例:(0→3)、(1→2)、(2→1')、(3→8)、・・・・
このような処理を計測した時間分処理することで、波形の全振幅とその計測時間内に同様の振幅が何回発生したかという頻度の情報を抽出することができます。
ちなみに全振幅は水源と流れが止まった位置(あるいは底なしの流れ)の差で計算しますが、それに0.5を乗じて振幅としたり、差の代わりに和を取って0.5を乗じることで平均値も得ることができます。
ひずみ時系列波形と応力ひずみ線図との関係
これまで全振幅や頻度情報の抽出方法について、その機械的な手順を説明してきましたが、ではなぜこのような方法で疲労被害を正しく評価できるのでしょうか。その概要を簡単に説明します。
図12-2にひずみの時系列波形と応力ひずみ線図との関係を模式的に示します。説明を簡単にするため、図12-1における0→3までの波形データのみ抽出しました。
図から解るように、1→2あるいは2→1'のひずみ変化は、応力ひずみ線図上で閉ループを描きます。レインフロー法ではこれを一つのサイクル(半ループが2つあるので1サイクルとなる)と見なしてカウントします。全体の大きなひずみの変化としては0→3となり、半サイクル分の全振幅としてカウントします。
このように応力ひずみ線図との対応を考慮して、合理的にひずみの変化をカウントする方法がレインフロー法です。
図では塑性も含む全ひずみに着目して説明していますが、これを弾性ひずみの変化に適用しても疲労被害カウントの実務上差支えありません。これはひずみの大きい低サイクル疲労、ひずみの小さい高サイクル疲労の両方に適用できるということです。
現在ではこのような処理をコンピュータがほとんどやってくれますので、あまりそのアルゴリズムについて意識する必要はないかもしれませんが、処理内容の概要くらいは理解しておくとよいでしょう。詳しく処理内容を知りたい方は、以下の論文を参考にしてください。
レインフロー法の代表的論文:「Rain Flow Method」の提案とその応用
その他にも、レインフロー法、PV差法などのキーワードで論文検索すると色々ヒットしますので参考にしてください。
疲労寿命の予測
累積疲労損傷則による高サイクル疲労の寿命予測
ひずみが小さい高サイクル疲労の場合、計測または解析して得られた応力の時系列波形について上記のようなサイクルカウント法を適用し、応力振幅とその頻度を抽出します。これらのパラメータを11項で説明した累積疲労損傷則に適用することで疲労寿命を推定することができます。
平均応力の考慮
平均応力が0でない場合には、9項で説明した疲労限度線図を用いて、両振りの応力振幅に換算することで累積疲労損傷則を適用できるようになります。(どの曲線を使うかという問題はありますが・・・)。
例えばgoodman線を用いるならば、9項でも紹介した下式を応用して両振りに換算した応力振幅を求めます。
・・・(12-1)
σa:応力振幅、σw:両振り疲労限度、σm:平均応力、σT:真破断応
上式(12-1)のσwは両振り疲労限度とありますが、これを両振りに換算した応力振幅と読み替えます。そして、サイクルカウントで得られた応力振幅σa、平均応力σm、真破断応力σTを代入してσwで解くことで両振りに換算した応力振幅を求めることができます。その後の手順は上記と同様で累積疲労損傷則を適用して疲労寿命を推定します。