1.はじめに|材料強度学
材料強度学とは
材料力学では部材に加わる力を推定し、基本公式からその部材に働く応力を求めることが主な目的です。したがって力学計算が主となります。一方、材料強度学では材料が持っている強度について考えます。内容は多岐に亘りますが、主には材料の破壊現象を取り扱う学問と言えます。
機械設計技術者として重要なことは、設計する製品が壊れないかどうかを事前にしっかり検討することです。そのためには、材料力学やFEM等を用いて部材に加わる応力や変形を計算することはもちろんですが、材料強度学に基づいてその部材が破壊しないかどうかを的確に判断できる技術を身に付ける必要があります。
現在では応力や変形を求める手段として、コンピュータによる解析、いわゆるFEMによる構造解析が多く使われるようになってきており、材料力学のように人手による計算では困難な複雑形状でも、比較的簡単に応力や変形を求めることができるようになってきました。しかし、その強度に関する最終的な判断はコンピュータではなく、依然として"人"によって行われていることが多いと思われます。それは強度の判断には材料の破壊に関する知識が不可欠であり、単純に解析で求めた応力値だけで評価することは困難だからだと考えます。更にFEMによる解析では特異点等の問題もあり、その強度的判断が難しい場面も多々あります。
本講座では、材料力学やFEMにより得られた結果から材料の強度を的確に判断できるようにするために、機械系技術者として知っていなければならない材料強度に関する最低限の知識についてまとめていきたいと思います。
本講座で取り上げる範囲
一般に材料強度学では、転位、すべり等の結晶塑性の説明から入り、どのようにして材料が塑性するか、また結晶粒界や異種原子の固容などによる強化のメカニズムなど、非常にミクロな視点での材料の性質から説明されることが多いです。これはこれで非常に重要な内容ですので理解しておくべきですが、敢えてここでは割愛し、機械設計技術者が強度の判断に必要な材料のマクロな視点での性質に絞って説明していきます。
したがって、材料強度学としては少々偏った内容になるかもしれませんが、足りないところは一般の教科書等を参考にして補足するようにしていただければと思います。