14.破壊力学の導入|材料強度学
これまで見てきたような応力という強度指標は、例えばき裂先端のような鋭い切欠き部においては理論上無限大となってしまうため、応力という指標を用いて強度評価することができません。よって、き裂先端の強度評価については応力に代わる何らかの強度指標を導入する必要があります。ちなみにこのような問題を扱う学問は破壊力学と呼ばれます。
破壊力学では応力に代わる強度指標として、応力拡大係数、エネルギー解放率、J積分などが用いられます。応力拡大係数とエネルギー解放率は線形弾性材料が前提ですが、J積分に関しては非線形材料まで適用することができます。
き裂とは
一口にき裂と言っても、疲労によってき裂が発生して進展する場合もあれば、溶接の不溶着部がき裂と同様のふるまいをする場合もあります。前者は材料力学的に検討できますし、それが起こる状況は明らかな設計ミスですのでここでは言及しません。問題は後者です。溶接の不要着部は通常のすみ肉溶接では必ず発生してしまいますので、これがき裂として進展して破壊に至ってしまうかどうかについてしっかり検討する必要があります。そのような検討に、これから説明する破壊力学的は非常に有効です。
き裂の変形様式
き裂の変形様式には以下に示す3つのモードがあります。モードTは開口型、モードUは面内せん断型、モードVは面外せん断型として定義されています。き裂先端の応力場や変形場はこれら3つのモードの組み合わせとして表現できるとされています。
モードI
開口型
モードII
面内せん断型
モードII
面外せん断型
座標系
破壊力学ではき裂先端を原点とした座標系が使われます。通常のx、y、z軸の他、xy面においてx軸からの角度θ、原点からの距離rとした極座標系も用いられます。前記した変形様式を示す図に座標系も記述していますので、合わせて確認してください。