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11.累積疲労損傷則|材料強度学

本項では応力振幅が時間的に変動するような実動荷重を受ける構造の疲労寿命を推定する方法について説明します。

累積疲労損傷則の考え方

実動状態の応力波形の特徴

寿命の推定にはS-N曲線が用いられます。7項で説明したように、S-N曲線は応力振幅を固定して破断するまで疲労試験を行ったデータに基づいて作成されます。しかし、実動状態における機械装置に加わる応力は一定の応力振幅などではなく、さまざまな振幅の応力がランダムに入力されることが多いです(図11-1)。

図11-1 実動状態の応力波形の例

累積疲労損傷則

このような応力波形を示す部材の疲労寿命を評価するには累積疲労損傷則が用いられます。累積疲労損傷則では、いろいろな振幅の応力がランダムに発生している状態を、σ1、σ2、・・・、σiなどの異なる振幅の応力が単独に繰り返されたものの和として寿命を推定します。

例えば、応力波形を分析した結果、σ1、σ2、・・・、σiの応力振幅が発生していたとして、その時の破断までの繰り返し回数をS-N曲線から読み取り、N1、N2、・・・、Niとします(図11-2)。

図11-2 S-N曲線の例

これらの応力振幅がそれぞれn1、n2、・・・、ni回繰り返されたとき、その損傷度をn1/N1、n2/N2、・・・、ni/Niと考えます。

累積疲労損傷則では、それら個々の損傷度の和を全体の損傷度Dとします。そしてD>=1になった時に疲労破壊が起こると考えます。

 ・・・(11-1)

D>=1:疲労破壊が起こる

D<1:疲労破壊破しない

この考え方を応用すれば、応力波形を分析することでさまざまな評価をすることが可能になります。例えば、製品の寿命を時間で知りたいときは、単位時間当たりの応力振幅と回数をカウントして、D=1になるまでの時間を算出したり、あるいは製品の稼働状況がサイクル単位で決まっているようなものは、1サイクルあたりの応力振幅と回数をカウントして、D=1になるまでのサイクル数を算出したりと、、それぞれの評価基準にあった評価をすることができます。

マイナー則

上記では特に説明もせずに、図11-2のような疲労限度のあるS-N曲線を用いました。疲労限度が存在する場合、疲労限度以下の応力振幅は無限寿命としていますので、損傷にカウントされません。このような手法はマイナー則と呼ばれます。しかし、実際の疲労現象では疲労限度以下の応力振幅も損傷に影響することが解っており、実現象と傾向が合わない場合もあります。

修正マイナー則

疲労限度以下の応力振幅についても損傷としてカウントするように修正を加えた手法が修正マイナー則です。修正マイナー則では図11-3のようにS-N曲線の傾きを疲労限度以下まで直線で延長し、すべての応力振幅を損傷として累積します。

図11-3 修正マイナー則に用いるS-N曲線の例

図11-3ではσjの応力が疲労限度以下ですが、S-N曲線の傾き部分を延長して仮想的な繰り返し数をNjとしてカウントします。σjがnj繰り返されるなら累積すべき損傷度はnj/Njとなります。

応力振幅をどう読む?

本項では、応力振幅とその繰り返し回数から疲労寿命をどのように推定するのかについて説明してきました。しかし、そもそも図11-1のようにいろいろな振幅を不規則に含む応力波形についてどのように応力振幅とその繰り返し回数を読み取ればよいのでしょうか。実はその方法については様々な手法が提案されています。

次項では応力振幅とその繰り返し数のカウント方法について説明していきます。

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