14.応力集中
応力集中
応力集中とは
応力集中とは形状の不連続性により、その近傍に大きな応力が発生することをいます。応力集中の原因となるものとしては、穴や切欠き、溶接部、断面の急激な変化などがあります。また材料そのものの不均一性なども原因となることがあります。
前項までに説明してきた応力を求める方法は一様断面を前提としているため、応力集中が考慮されていません。実際の構造には様々な形状不連続性が伴うことが多いため、それにより発生する応力集中を適切に考慮しないと思わぬ失敗をすることになります。
応力集中係数
応力集中は応力集中係数αというパラメータで評価されます。形状係数と呼ばれることもあります。
応力集中係数は切欠き材において切欠き底部に発生する最大応力σmaxと平滑材の応力σ0の比で表されます。式で書くと下式(14-1)のようになります。これは形状だけで決まる値です。
・・・(14-1)
図14-1は平滑材と切欠き材に発生する応力を模式的に示しています。この時、平滑材の断面積と切欠き材の切欠き底部の断面積は同一だとします。
これまで説明した方法によると応力は荷重F/断面積Aになるのですが、切欠きのような形状の不連続があると、応力の分布は均一にならず、切欠きの底部で大きな応力が発生する現象が起こります。この時の最大応力と、荷重F/断面積Aで計算される応力(公称応力と呼びます)との比で応力集中係数αは定義されています。
応力集中係数αは多くの代表的形状に関して実験的・理論的に求められ、各種文献には記載されています。したがって、設計者は自分が設計している製品の形状から応力集中係数がどの程度になるかを、文献などからある程度見積もることができます。そのような先人の知見を大いに利用して効率的な検討を行えるようにしましょう。
切欠き係数
切欠き係数に関しては別途計画中の材料強度学講座で詳しく書く予定ですが、応力集中係数と合せて理解いただきたいパラメータなので、簡単にここでも紹介することにしました。
切欠き係数の定義
応力集中係数と共に非常な重要なパラメータとして切欠き係数βというものがあります。混同されがちですが、異なる概念ですがので注意しましょう。
切欠き係数は疲労強度に関係するパラメータです。図14-2は先ほどと同じような図ですが、今度は疲労限に関して示しています。
切欠き係数とは、平滑材の疲労限σw1と切欠き材の疲労限をσw2の比で表されます。式で書くと下式(14-2)のようになります。これは形状だけでなく、材料の硬さや温度、大きさなどの影響を受けます。
・・・(14-2)
ここで疲労限とは、部材に荷重を繰り返し加える試験(疲労試験)において、これ以上繰り返しても壊れない最大の応力です。この時の応力は材料力学的に計算する公称応力であり、切欠き底の集中した応力ではありませんので注意してください。切欠き底でどの程度応力が発生しているかはここでは問題にしていません。
応力集中係数と切欠き係数の関係
応力集中係数αはどこまでも大きく成り得ます。これはFEMでメッシュを細かくしていくと際限なく高い応力が計算されるのと同じです。一方、切り欠き係数βについては鉄鋼材料の場合、SS400などの軟鋼で"2"、引張強さの大きい硬い材料でも"3"程度までにしかなりません。
図14-3に切り欠き係数と応力集中係数の関係のグラフを示します。
(注意:これは実験に基づくものでなく、私が適当に描いたもです。データが手元にないので正確ではありませんが、イメージはこのような関係になります)
FEM構造解析基礎講座の応力集中部の評価の項でも書きましたが、応力集中係数と切欠き係数の違いを利用すれば、FEMにおいても実験的にも精度の悪い応力集中部に関して、設計的に妥当な評価ができるようになると私は考えています。非常に重要な概念ですのでここで理解しておきましょう。