5-2.モールの応力円|材料力学
主応力は応力テンソルの固有値そのものなので、前項では固有値の考え方をベースにまとめました。ここでは少し視点を変えて、幾何学的に主応力あるいは応力の方向性について理解する方法であるモールの応力円についてまとめてみたいと思います。
モールの応力円式の導出
今回は話を簡単にするため2次元で考えることとします。図5-2-1はこれからの計算で想定する状況を示しています。ここではx軸、y軸に主応力が一致しているものとします。
ここで、x軸からθだけ傾いた方向ベクトルnを法線とする面(ここではn面と呼ぶ)を考え、この面に働く応力(垂直応力、せん断応力)を算出します。モールの応力円の式は、このような任意断面に働く垂直応力、せん断応力の関係から導出することができます。
任意断面に働く応力を求める方法にはいろいろありますが、3項で示した特定の方向応力を抽出する式(3-5)を用いて求めてみます。
n面に働く垂直応力σn
まずはn面に働く垂直応力σnを求めていきます。改めて式(3-5)を以下に示します。便宜上、改めて式番号を(5-2-1)としました。右辺、右側のnベクトルは応力を抽出したい面の方向を表し、左側のnベクトルは抽出したい応力の方向を表しています。
・・・(5-2-1)
法線ベクトルnは次式で表わされます。
・・・(5-2-2)
これを式(5-2-1)に代入すると以下を得ます。応力テンソル[σ]は、今回x軸y軸に主応力が一致していますので、せん断応力成分は0になります。今回σxxとσyyと表記していますが、主応力と一致していることからσxx=σ1、σyy=σ2、あるいはその逆のσxx=σ2、σyy=σ1となります。
・・・(5-2-3)
・・・(5-2-4)
ここで以下の三角関数の公式を利用します。2倍角の公式といわれるものですね。
・・・(5-2-5)
・・・(5-2-6)
上記の公式を式(5-2-4)に代入し、cos2θについて整理します。
・・・(5-2-7)
・・・(5-2-8)
これで、とりあえずn面の垂直応力が求められました。
次にせん断応力を求めていきます。
n面に働くせん断応力τn
n面に働くせん断応力はsベクトル方向の応力ですので、右辺の左側の方向ベクトルが{s}となっています。右辺右側の方向ベクトルはn面を表していますので{n}のままです。
・・・(5-2-9)
ここでせん断方向のsベクトルは以下のように表わされます。
・・・(5-2-10)
sベクトル、nベクトル、応力テンソルを式(5-2-9)に代入します。
・・・(5-2-11)
・・・(5-2-12)
・・・(5-2-13)
ここで、また三角関数の公式を利用します。これも2倍角の公式で、sin2θに関する式です。
・・・(5-2-14)
三角関数の公式(5-2-14)を式(5-2-13)に代入します。
・・・(5-2-15)
ということでn面に働くせん断応力τnが求められました。
モールの応力円の式は、これら垂直応力とせん断応力との関係から導くことができます。
モールの応力円の式
ここで式を解り易くするため、以下の式を導入します。
・・・(5-2-16)
・・・(5-2-17)
・・・(5-2-18)
式(5-2-16)はσxxとσyyの平均をとったものです。式(5-2-17)は後で解りますが、せん断応力のmaxを表しますので、このような表記としています。これらを導入することで式が見易く、そして解り易くなります。また、さらに式(5-2-18)も使いますが、これは単なる三角関数の公式です。
さて、これらを式(5-2-8)と式(5-2-15)に代入したものが、それぞれ式(5-2-19)と式(5-2-20)です。
・・・(5-2-19)
・・・(5-2-20)
sin2θを消去するように式(5-2-20)を式(5-2-19)に代入すると、
・・・(5-2-21)
σavを左辺に移項して両辺を2乗して、少し式を整理していくと、
・・・(5-2-22)
・・・(5-2-23)
最終的に式(5-2-23)のようになりました。これがモールの応力円を表す式になります。よく見ると円の公式と同じであることが解ります。
モールの応力円の作図
式(5-2-23)を作図したのが図5-2-2です。横軸に垂直応力σ、縦軸にせん断応力τを取ります。円の中心はσ軸上のσavで、半径はτmaxになります。
結局、任意の面における垂直応力とせん断応力の関係は図5-2-2のような円を描くということです。ただし角度は2θになっていることに注意してください。
元の応力状態により、いろいろな円のパターンが考えられますが、円の中心は必ずσ軸上にあります。
読み方のポイント(主応力基準)
まず、図のようにσ軸上を0°として左回りに角度をとり、円の中心を通るような線を描きます。このとき、この線と円とが交わるポイントが、n面に働く応力となります。角度は2θとなることに注意してください。
θ=0の時、完全にせん断応力τは0となるのは図から明らかで、n面に働く応力は垂直応力のみになります。これはすなわち主応力ですので、n面に働く垂直応力はσ1となります。交わるポイントはもう一つσ2がありますが、こちらはn面に対して90°傾いた方向のs面(図5-2-1上のsベクトルを法線にもつ面)に働く垂直応力です。
任意の角度θのときはのn面に働く垂直応力σn、せん断応力τn、s面に働く垂直応力σs、せん断応力τnは幾何学的な関係を用いて求めることができます。
円の中心である平均応力σavと円の半径である最大せん断応力τmaxは以下により計算できます。
・・・(5-2-24)
・・・(5-2-25)
σnは平均応力σavにτmax×cos2θを足したものと図から読み取れますので、式(5-2-26)で計算できます。τnは半径であるτmaxのsin2θですので、式(5-2-27)のようになります。
・・・(5-2-26)
・・・(5-2-27)
このように円の幾何学的な関係から導いたこれらの式と、モールの応力円式の導出の項で導いた式が同じであるのことに注目してさい。モールの応力円が描けてしまえば、任意の角度の応力はこのような幾何学的な関係から簡単に導くことができます。
応力テンソルからモールの応力円を描く
作図方法
次は解析モデル上で定義されている座標系で計算した応力テンソルから、主応力の方向を調べる方法を説明します。
2次元応力場において、応力テンソル成分はσxx、σyy、τxyの3成分があります。これらを使ってモールの応力円を描いていきます。
まず円の中心を求めます。円の中心はσavですので式(5-2-16)を使って求めることができます。後はσxxとτxyから円周上の点をプロットすれば円を描くことができます。図では3つの赤丸で点をプロットしていますが、円周上の点はどちらか1つあれば円を描くことができます。
ちなみにここではσxx>σyyとしています。逆の場合も考え方は同じです。
モールの応力円から主応力を求める
円が描けてしまえば、図の幾何学的な関係から以下の式を簡単に導くことができます。
まずは円の半径を下式(5-2-24)で求めます。
・・・(5-2-28)
主応力、主応力方向までの角度θは以下の式で求めることがでいます。これも図の幾何学的関係から簡単に導くことができます。
・・・(5-2-29)
・・・(5-2-30)
・・・(5-2-31)
まとめ
このようにモールの応力円を用いれば、これまで説明してきたような複雑な計算をしなくとも幾何学的な関係から簡単に任意の角度の応力状態、あるいは主応力やその方向を求めることができます。
現在のFEM構造解析ソフトウェアでは、任意の方向の応力や主応力、あるいはその方向ベクトルなどを簡単に表示する機能がありますので、モールの応力円を直接活用する場面は少ないかもしれません。しかし、そのようなソフトウェアの機能に頼るばかりではなく、自分の頭で応力の状態をイメージできるようにすることは、応力というものの性質の理解に繋がると共に、質の高い構造検討への助けになるはずです。試しに一度モールの応力円を描いてみることをお勧めします。