06.大質量法|動解析入門
大質量法とは
大質量法はラージマス法とも呼ばれ、構造物に対して強制運動加振※したい場合に用いられる手法です。各種振動試験の再現、地震による応答解析などに応用できます。
(※強制運動加振:力ではなく加速度や速度、変位を指定して加振させること)
現在では構造物に対して加速度、速度、変位などを直接定義して強制運動加振することが可能なソフトウェアも多いですが(NASTRANではSPCD法により強制運動の定義が拘束条件として定義可能です)、一昔前は荷重としてしか加振力を定義できなかったため、大質量法という手法が考案されました。
大質量法ではモデル化している構造の全質量に対して十分大きな質量(大質量M)を仮想的に定義し、加振させたい部位に結合させます。そして大質量が意図した強制運動となるように等価な力で加振力を定義します。例えば加速度aで加振させたい場合には、F=Maとして加振力を定義します(大質量MがないとFによって発生する加速度は構造の動的な剛性に依存するため一意に決まりません)。大質量法は周波数応答解析、過渡応答解析の両手法で適用可能です。
大質量の大きさ
大質量の質量をどの程度にするかは解析精度に大きく依存するので重要なパラメータです。一般的には解析対象構造物の10^6倍程度の質量(回転の場合には慣性モーメント)を設定することが多いです。
・・・(6-1)
M:大質量の質量、m:解析対象の全質量
荷重値
入力荷重としては、例えば動的な加速度aを入力として応答解析をする場合、荷重Fは下式のように定義します。
・・・(6-2)
F:荷重、M:大質量、a:加速度
速度vや変位uを基準に強制運動加振する場合には上式の加速度aを下式により求めます。位相を問題にしなければ、iや-(マイナス)は無視しても問題ありません。
・・・(6-3)
a:加速度、v:速度、u:変位、ω:角速度、i:虚数単位
具体例
振動試験の状況を大質量法で解析する場合を例に説明します。
試験対象の構造物は振動台に固定され、振動台がある規定の加速度aで加振される状況を考えます。
これを解析で再現するためには振動試験機自体はモデル化せず、大質量で模擬します。そして対象の構造物を剛体バーなどで大質量Mに固定し、動的な加振力FをM×aで大質量に設定します。これにより構造物が加速度aで加振される状況をモデリングすることができます。大質量に慣性モーメントも適切に設定すれば拘束はなしでも可能ですが、通常は加振方向の自由度のみ解放して、それ以外の自由度を拘束しておきます。
解析例
Abaqusチュートリアルの『大質量法(ラージマス法)』の項で解析した事例を紹介します。
解析条件
- プレート寸法:300×50×1.2mm
- 材料:鉄鋼材料を想定(E=210GPa,ρ=7.85e-6kg/mm^3,ν=0.3)
- 拘束条件:大質量部のZ並進(加振方向)以外を拘束
- 大質量:141000kg(プレート質量×10^6)
- 荷重条件:大質量に9.81×10^8mN(周波数範囲:1〜100Hz、1G加振相当)
- 固有値抽出範囲:1〜500Hz
- 減衰:1〜500Hzの範囲で減衰比0.05
モデルの外観は以下です。プレート下部の大質量に対してZ方向1Gの一定加速度で加振できるだけの荷重を定義し、周波数応答解析を実施します。
解析結果
プレート先端の加速度応答のグラフを下図に示します。大質量法では強制運動加振ができるというだけで、結果としては単なる周波数応答解析です。