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03.固有値解析|動解析入門

固有値解析とは?

固有値解析は構造が持っている振動的な特性を求める解析手法です。ここでいう振動的な特性とは固有振動数固有モードです。

固有値解析では、あくまで振動的な特性を求めますので入力荷重はありません。したがって解析結果として固有モードの変形形態を見ることができますが、変形量自体に意味はありません。変形を表すための相対的な位置関係は評価できますが、絶対的に何mm変位しているとは言うことができません。この辺を勘違いしやすいですので気を付けてください。

また、減衰を考慮することもできません。過度な減衰は固有振動数にも影響しますが、通常の固有値解析では減衰がない状態での固有振動数と固有モードのみしか求めることができません。

(参考)
一般的に固有値解析というときは実固有値解析のことを指しますが、似たような名前で複素固有値解析という手法があります。複素固有値解析では、減衰や摩擦などを考慮することが可能で、解析結果として固有振動数、固有モードの他、モード減衰比についても求めることができます(参考リンク:複素固有値解析)。

関連技術メモ

固有値解析の用途

振動的な問題の多くは共振によって発生します。共振とは入力される荷重の周波数と構造側の固有振動数が一致することで振幅が増大してしまうことです。これにより、不快な振動や騒音、あるいは破損などの問題を引き起こすため、機械の分野では避けなければならない現象です。

固有値解析では前述のように、構造の固有振動数と固有モードを求めます。言い換えれば、この構造は”どのくらいの周波数で””どのように振動するか”が解ることになります。もし想定される荷重の周波数が既に解っているのなら、固有値解析によって構造側の固有振動数を求めることで、共振が発生するかどうかについて事前に確認することができます。また、その結果として共振が起こり得ることが予見できたなら、問題の固有モードをよく観察することで対策検討を効率的に実施することができます。

振動に関する構造設計の基本は、”共振を起こさない”ことです。このような検討には固有値解析で得られる固有振動数と固有モードだけあれば十分なことも多いです。また固有値解析は解析ソルバーの基本機能として備わっていることも多く、オペレーションも簡便です。したがって固有値解析は一般的に広く用いられており、後述する周波数応答や過渡応答解析の入力データにもなるなど、振動に関わる解析の基本となっています。

解析例

Abaqusチュートリアルの『固有値解析』の項で解析した事例を紹介します。

解析対象は単純なプレートの片方を固定した片持ち梁です。

  • プレート寸法:300×50×1.2
  • 材料:鉄鋼材料を想定(E=210GPa,ρ=7.85e-6kg/mm^3,ν=0.3)
  • 境界条件:片側の端部を完全固定
  • 固有値抽出範囲:1〜500Hz

この条件で固有値解析を実施した結果は以下です。

モード1 11.3Hz

モード2 70.6Hz

モード3 133Hz

モード4 198Hz

モード5 390Hz

モード6 406Hz

モード7 455Hz

固有値解析では固有振動数と固有モードが得られます。もし入力される荷重の振動周波数が0〜100Hzの範囲にあるとすれば、モード1と2がその範囲に入ることになり、共振が発生する可能性があります。共振が発生すると振幅が大幅に増大し、不快な振動・騒音が発生したり、すぐに破損に至ってしまうこともあります。対策としては構造の剛性を上げることが一般的です。モード1、2の固有モードを観察すると、プレートの曲げ方向の変形をしていることが解りますので、対策としては曲げ方向の剛性向上(断面二次モーメントを大きくする)の検討をして100Hz以上になるように検討します。

もし入力される荷重の振動周波数が100Hz固定であった場合、とりあえず共振は回避できていると判断することができます。しかし、隣接するモード(モード2や3)の影響で振幅の増大が懸念されます。固有値解析だけでは振幅がどのくらいになるかについては判断することができませんので、固有振動数に対して入力荷重の振動数がどの程度離れていれば問題にならないか、についての判断基準が必要になります。これは前述の固有振動数を100Hz以上に検討する話にも言えます。固有振動数を100Hz以上にしなければならないのは解ったけれど、どこまで剛性を向上させればいいのでしょう・・・。

そうすると、やっぱりちゃんと振幅も予測できればいいのになぁと思うかも知れません。実は、それに関して検討できる手法が次項以降で説明する周波数応答解析や過渡応答解析になります。

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