02-1.固有値解析理論|動解析入門
本項では固有値解析の基礎方程式の導出と、固有値解析の結果を用いたモード座標系への変換について説明します。モード座標系への変換は、後で説明するモード法による周波数応答解析や過渡応答解析を理解するために必要な概念となりますが、ついでなのでここで説明しておきます。
基礎方程式の導出
固有値解析では、前項で紹介した動解析の基礎方程式(2-1)に対して、減衰なし[C]=0、荷重なし{F}=0の自由振動状態を想定しています。これを式に表すと下式のようになります。
・・・(2-1-1)
上式の解{x}は単純な調和振動となることが予測できますので、{x}を下式のようにおきます。
・・・(2-1-2)
{φ}:全体変位ベクトル、eiωt:オイラーの公式(i:虚数単位、ω:角速度、t:時間)
上式の1階微分、2階微分は下式にようになります。
・・・(2-1-3)
・・・(2-1-4)
式(2-1-2)、式(2-1-4)を式(2-1-1)に代入します。
・・・(2-1-5)
少し整理しますと
・・・(2-1-6)
上式は数学でいうところの一般固有値問題となります。この式を満たすω2と{φ}を求めることが固有値解析です。ここでω2は固有値、{φ}は固有ベクトルと呼ばれ、自由度の数だけ存在します。例えば、[K]及び[M]がn×nのマトリクスであった場合、固有値、固有ベクトルの数はn個となります。しかし、通常はすべての固有値、固有ベクトルを求めることは稀で、目的に合わせて最低次から数個〜数十個程度を抽出することが多いです。
ちなみにωは角速度ですので、振動数fに変換するには下式を用います。
・・・(2-1-7)
正規化
式(2-1-6)において、式を解りやすくするため固有値ω2をλ(一般的に固有値はλと表記される)とおきます。その上でi番目の固有値をλiとし、固有ベクトルを{φi}とします。
・・・(2-1-8)
・・・(2-1-9)
ここで、左側から{φi}Tを乗じます。
・・・(2-1-10)
{φi}の大きさを下式の様になるようにすることを固有ベクトルの正規化と呼びます。
・・・(2-1-11)
多くのソルバーではこのように質量マトリクスで正規化しています。その他には固有ベクトルの大きさ自体を1にする方法もあります。
そうしますと、式(2-1-10)は下式(2-1-12)のようになります。
・・・(2-1-12)
つまり、全体剛性マトリクスの両側から固有ベクトルを乗ずると固有値になるということです。
モード座標系への変換
すべての固有ベクトル(実はすべてでなくてもよい。任意の数の固有ベクトル)を並べて一つのマトリクスにしたものを下式のように定義します。
・・・(2-1-13)
そうしますと、式(2-1-12)は下式のようにすべての固有モードに関してまとめて表記することができます。
・・・(2-1-14)
ここで[λ]は対角項に固有値を持つ対角マトリクスになります。
・・・(2-1-15)
このような性質は主軸変換と呼ばれ、応力テンソルから主応力を計算したり、慣性モーメントから主慣性モーメントを求めたりすることと実は同じことなのです。テンソルの主軸変換では3×3のマトリクスであるため、主軸座標系への変換は空間の座標系を傾けることで認識できますが、固有モードを用いた今回のような主軸変換はマトリクスのサイズが多いため、単純に空間座標系を傾けるだけというわけにはいきません。このような変換を振動の分野ではモード座標系への変換と呼びます。
モード座標系の次元数は使用する固有モードの数となります。例えば、数百万自由度もある剛性マトリクスでも10個のモードだけを用いてモード座標系へ変換したとすると、10自由度の全体剛性マトリクスになってしまいます。後述しますが、モード法という手法はこのようなやり方で計算すべき自由度を減らし、効率的に計算できるようにしています。