3.CAEの理想を実現させる上での問題点とは|CAEの効果的活用法
前項で定義したCAEのあるべき姿を改めて以下に示します。
「誰でも、簡単に、素早く、実現象をコンピュータ上で再現し、的確に評価することができる」
このようなCAEの理想型を実現しようとすると、どのような問題が起きるのでしょうか。
CAEの理想を実現させる上での問題点
「誰でも、簡単に、素早く」に関する問題点
もはやモデルをいろいろいじくるのではなく、ボタン一発レベルでないとこれは実現できないと思います。これならノウハウもいらず誰でもできます。ウィザード形式で答えていきながらモデル作成する方法も考えられますが、これは一応人が何らかの判断をする必要がありますので誰でもの部分で問題があります。
「実現象をコンピュータ上で再現」に関する問題点
実現象を完全に再現させるためには解析モデルはかなり詳細にならざるを得ません。しかしこれは少し考えただけで不可能であることが解ります。
そのような解析モデルは、メッシュ分割の規模的にも、境界条件的にも無理があります。流体解析では大小様々な渦を再現するために必要なメッシュサイズはかなり細かくする必要があります。そうしない方法としてk-ε等の乱流モデルが利用されますが、これでまた近似を許容することになります。境界条件についても構造解析における空間への完全拘束はあり得えず、何らかの剛性を持った柔支持が通常です。バネなどを使って再現してもよいが、どんどん複雑になっていき、誰でも簡単に素早くが実現できなくなっていきます。
また、それだけでなく数値解析的な近似もさらに加わります。完璧な方程式を立てられたとしてもそれを厳密には解くことができず、何らかの数値解析的手法が必要になることが多いです。ナビエストークス方程式もそうですね。厳密解は限られています。
結局ある程度の近似は許容する必要があるということです。現実を完全に再現することなど原理的にあり得ないことなのです。
「的確に評価することができる」に関する問題点
これを誰でも簡単に素早くですから、自動化する必要があります。ノウハウをすべてシステム化して判定してくれる。これは将来的にある程度できるかもしれません。
しかし、応力集中部に代表される特異点の判断など、しっかりシステムを組まないと的外れな答えになることも考えられます。そのような時、まず変だと感じることのできる技術を人が持っていないとなりません。そうなると誰でもの部分で実現困難になってきます。
全般に言えますが、このようなシステムになると人は考えなくなると思われます。解析モデルを作る過程でも、評価する過程でも、いろいろと、あーでもない、こーでもないと考えることで人は技術を習得していくと思うのです。例え理想のCAE システムが構築されたとしても、技術者育成の観点からは非常に問題であると考えます。次の世代の技術者が育たない環境となってしまうことが危惧されます。
これは完全に標準化されたシステムも同様です。この場合モデル化する人は単なる作業者となることが多いです。最近はこういう作業者的なCAE技術者が多くなりつつあります。
問題点のまとめ
以上だらだら書いてしまいましたが、CAEの理想を実現させる上での問題点は以下の2点に集約されると考えます。
- そもそもCAEで現実を完全に再現させることなど不可能に近い
- 簡便なシステムは人の技術レベルを低下させる
ではどのようにCAEを活用すべきなのでしょう。