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丸棒の座屈解析|Abaqusチュートリアル

(Abaqusバージョン:Abaqus 6.9 Student Edition)

前項で座屈の話をしましたので、手計算ではなくAbaqusを使って線形座屈解析を実行する方法について説明します。

ここでは単純な丸棒1本に圧縮荷重が加わる状況を想定して、座屈解析の手順を説明していきます。

前項のホイスト式天井クレーンのモデルで座屈解析のチュートリアルを作成しようとしたのですが、要素端の解放自由度の設定など、Abaqus/CAEで対応していない機能を使う必要があるためやめました。末に結果の紹介だけにしていますので参考にしてください。

丸棒の座屈解析

<目次>

概要

解析モデルの概要について説明します。構造部材としては長さ1000mm、直径10mmの単なる丸棒です。材質は鉄鋼材料を想定しています。この部材を両端を回転支持した状態で上部から下向きに力を加えます。部材にとっては圧縮方向の力を受けることになります。

解析の目的はこの部材の座屈荷重を求めることです。今回のモデルは前項までに説明したホイスト式天井クレーンのフレーム構成部材を1本だけ抜き出した状態となります。前項では座屈荷重を材料力学の公式を用いて計算しましたが、今回はAbaqusの座屈解析で座屈荷重を計算します。

座屈解析では設定した入力荷重Pが座屈荷重Pkに対してどの程度の比率になるかが計算されます。つまり座屈安全率を求めていることになります。座屈安全率については前項で説明しましたが、ここでも以下に示します。

 ・・・(8-1)

Pk:座屈荷重、P:部材に加わる圧縮力

今回、解析モデルに設定する荷重値Pはとりあえず1[N]としますので、座屈解析で得られる結果は座屈荷重Pkそのものとなります。

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パートの作成

さて、前置きが長くなりましたが、モデルの作成手順について説明していきます。

事前に、Abaqus/CAEを起動してください。セッションの開始というダイアログが出る場合には閉じておいてください。

パートの作成

モデルツリーパート上で右クリックして現れるメニューにおいて作成をピックします。ちなみにパートダブルクリックすることでも同じ操作をすることができます。

以下のパートの作成ダイアログにより、どのような形状作成するのかを定義します。ここでは前回同様2D平面モデルを作成しますので、モデリング空間:2次元平面、タイプ:変形体、ベースフィーチャ:ワイヤ、近似サイズ:2000を入力します。名前は適宜変更しても構いません。

設定が終わりましたら、続けるのボタンをクリックします。そうしますとビューポートはグリッドが表示されたスケッチ画面に切り替わります。

断面のスケッチ

後で寸法を入れるとして、まずは部材の大まかに形状を作成します。と言っても単なる直線一本だけなのですが・・。ツールボックスエリアにスケッチで使用するアイコンが多数用意されていますが、ここでは@に示す"直線の作成、結合"をクリックします。これはクリックした点を結んで直線を作成するツールです。縦の直線になるようにA、Bの順にビューポート上をクリックしてください。BまでクリックしましたらCEscキーで作業をキャンセルしてください。

拘束の追加

うまく上下に向くように直線をスケッチすると自動的に鉛直の拘束が追加され、Vのアイコンが直線の中央付近に表示されます。もし傾いて直線を作成してしまった方は手動で拘束を定義します。@の拘束の追加ツールをクリックA鉛直を選択Bスケッチした直線をクリックします。下図参照。

寸法の追加

@寸法の追加をクリックします。A寸法を追加したい辺をクリックします。寸法線がマウスポインタに引き出されますので、B寸法を配置したい位置でクリックします。最後にCプロンプトエリアに寸法値を入力してEnterキーを押します。必要に応じてビューを調整してください。

最終的な形状は以下のようになります。最後に完了をクリックしてスケッチャーを終了します。

ファイルの保存

ここで一旦ファイルを保存しておきましょう。操作方法は、ファイル/保存 または ファイル/別名保存。 定期的に保存しておくようにしましょう。

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材料定義

ここでは弾性率210GPa、ポアソン比0.3の鉄鋼材料を想定します。モデルツリーにおいて材料特性の項目の右クリックメニューから"作成"を選択(材料特性の項目をダブルクリックでも可)。

上記操作によって現れる"材料特性の編集"ダイアログにおいて、名前に"steel"と入力します。これは例であり、名前は何でも構いません。複数の材料を使用するときにちゃんと識別できればよいです。JISの材料名を入れてもよいかもしれません。さらに"材料特性の編集"ダイアログにおいて、メニューの機械的/弾性/弾性を選択します。

そうすると、材料挙動のリストに"弾性"の項目が追加されて、下側に"弾性"についての定義ができるようになります。ここで構造解析で使用するYoung率(弾性率)とPoisson比(ポアソン比)を入力します(参考:材料力学講座/弾性率)。単位系は整合性が取れていれば何でも良いですが、ここでは力としてmNを用いる単位系を使います。(参考:整合性の取れた単位系)

入力が終わりましたら、OKボタンをクリックします。モデルツリーの材料特性の項目を展開すると、今定義した"steel"が追加されていることが確認できます。

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要素特性の定義と割り当て

今回の解析では、はり要素を使用します。はり要素特性の定義には 材料の参照と断面形状の定義が必要となります。

はり断面の定義

モデルツリーにおいて、はり断面の項目の右クリックメニューから"作成"を選択(はり断面の項目をダブルクリックでも可)。この時、自動で特性モジュールに切り替わります。

"はり断面の作成"ダイアログにおいて、形状に円形を選択し、続けるボタンをクリックします。適宜名前を変更しても構いません。

続く"はり断面の編集"ダイアログにおいて、半径r=5を入力して、OKボタンをクリックします。

要素特性の定義

モデルツリーにおいて、要素特性の項目の右クリックメニューから"作成"を選択(要素特性の項目をダブルクリックでも可)。この時、自動で特性モジュールに切り替わります。

"要素特性の作成"ダイアログにおいて、カテゴリで"はり"タイプで"はり"を選択して、"続ける"ボタンをクリックします。

"はり要素特性の編集"ダイアログにおいて、はり断面名に先ほど定義した断面名を選択材料特性名にも先ほど定義したsteelを選択最後にOKボタンをクリックします。

はり断面方向の割り当て

はり断面の定義のところで、はり断面の編集ダイアログに表示されていた図に、断面の座標系1-2が定義されていました。ここでは1の方向がモデル上でどの方向にするかを設定します。今回は円形断面ですのであまり気にする必要はありませんが、1と2の方向で異なる断面形状の場合はこの設定が重要になってきます。

@はり断面方向の割り当てツールをクリックし、ビューポート上でA部材のスケッチを選択します。B完了ボタンをクリックすると、n1方向を指定してくださいと表示されます。今回のような2次元モデルは(0,0,-1)に設定されていますので、そのまま受け入れてCEterキーを入力、画面上に座標系が表示されますので確認してDOKをクリックします。

要素特性の割り当て

上記で定義した要素の特性をスケッチした部材に対して割り当てます。モデルツリーにおいて、パート、Part-1をそれぞれ展開します。Part-1の下位にある要素特性割り当てという項目の右クリックメニューから"作成"を選択します。

プロンプトエリアに"要素特性を割り当てる領域を選択してください"と出ますので、この状態で@ビューポート上のモデルをマウスを使って選択します。この時マウスをドラッグすることで選択することもできます。正しく選択されましたらAプロンプトエリアの完了ボタンをクリックします。

要素特性割り当ての編集ダイアログにおいて、要素特性に先ほど作成したSection-1が選択されていることを確認してOKボタンをクリックします。これにより部材に対して材料特性、断面形状をセットした要素特性が割り当てられました。

要素特性が割り当てられますと、下図のようにフレームモデルがアクア色に変化します。

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モデルのアセンブリ

まずはアセンブリにおいてパートのインスタンスを作成します。モデルツリーでアセンブリを展開してインスタンスの項目上の右クリックメニューから"作成"を選択します。この時、自動でアセンブリモジュールに切り替わります。

"インスタンスの作成"ダイアログにおいて、インスタンスタイプをディペンデントに設定してOKボタンをクリックします。

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解析ステップの定義

解析ステップの作成方法

モデルツリーにおいて、ステップの項目の右クリックメニューから"作成"を選択します。この時、ステップモジュールに自動で切り替わります。

上記操作で現れる"ステップの作成"ダイアログにおいて、プロシージャタイプ:線形摂動Buckleを選択して、続けるボタンをクリック。名前を適宜変更しても構いません。

上記操作で現れる"ステップの編集"ダイアログにおいて、座屈解析の手法の選択と設定を定義します。線形の座屈解析は座屈固有値解析とも呼ばれ、座屈モードを計算する手法は振動における固有モード計算する方法と同形となり、内部的には固有値解析(座屈荷重→固有値、座屈モード→固有ベクトル)をすることになります。Abaqusでは固有値を求める手法として Lanczos 法とサブスペース法が提供されていますが、ここではデフォルトのサブスペースを選択して求める固有値の数に5を入力します。OKボタンをクリックします。

(補足)

振動の時もそうなのですが、固有値の数をどう設定してよいか迷うこともあると思います。座屈の場合は基本的に最も低いモードが問題になるのでたくさんの数は必要ありません。しかし、同じ固有値(座屈荷重)で複数の座屈モードが存在する場合があるので、座屈モードをしっかり把握したい場合はとりあえず大きめの値を入力したほうが良いかもしれません。

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荷重条件の定義

モデルツリーにおいて、荷重の項目の右クリックメニューから"作成"を選択します。この時、荷重モジュールに自動で切り替わります。

上記操作で現れる"荷重の作成"ダイアログにおいて、ステップで先ほど作成したステップ名(Step-1)、カテゴリで機械的、タイプで集中力を選択し、続けるのボタンをクリックします。名前を適宜変更しても構いません。

次にビューポート上で荷重を設定するポイントを選択します。@に示す点をクリックして選択し、A完了ボタンをクリック

上記操作で現れる"荷重の編集"ダイアログにおいて、CF2に-1000と入力(1N)します。

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境界条件の定義

両端回転支持の拘束条件を設定します。

境界条件の定義

モデルツリーにおいて、境界条件の項の右クリックメニューから"作成"を選択します。

上記操作で現れる"境界条件の作成"ダイアログにおいて、ステップ:Initialカテゴリ:機械的タイプ:変位/回転、を選択し、"続ける"ボタンをクリック。名前を適宜変更しても構いません。

ここで境界条件を設定する部位を選択するのですが、まずは部材下端に設定していきます。ビューポート上で@下端の点を選択Aプロンプトエリアの"完了"ボタンをクリックします。

上記操作で現れる境界条件の編集ダイアログにおいて、U1、U2にチェックを入れます。したがってこの設定で並進自由度をすべて拘束したことになります。回転は自由ですのでこの点で回転を許容しています。OKボタンをクリックして設定を終了します。

<補足>
Uは並進変位を表し、URは回転変位を表します。後に続く数値は方向を表し、1,2,3はそれぞれx,y,zを表します

同様の操作で今度は上端の点について境界条件を設定します。編集ダイアログにおいて、U1にチェックを入れます。これにより左右方向のみ拘束されたことになります。最後にOKボタンをクリックして設定を終了します。

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モデルのメッシュ分割

メッシュモジュールへの切り替え

まずはモデルツリーにおいて、パート/Pert-1まで展開し、メッシュという項目が表示されるようにします。次にメッシュ(空)の項目の右クリックメニューからコンテキストの切り替えを選択します。コンテキストの切り替えとはモジュールを切り替えることと同義だと思います。

要素タイプの割り当て

下図に示す要素タイプの割り当てアイコンをクリックします。

上記操作で現れる"要素タイプ"ダイアログにおいて、要素ライブラリ:Standardジオメトリ次数:2次ファミリ:はりを選択します。最後にOKボタンをクリックします。

今回は線形の解析ですし、曲げが卓越するモードが想定されますので、2次要素を使用することとしました。

シードの定義

シードとはメッシュをどのようなサイズで分割するかということを決める設定です。モデル上に予めメッシュの基準点となる種(シード)をばらまきます。

下図に示すパートのシードアイコンをクリックします。

上記操作で現れる"全体シード"ダイアログにおいて、近似全体サイズを100と入力します。部材の長さが1000mmですので、10要素に分割される設定です。

適用ボタンをクリックすると、下図のようにエッジ上に点が表示され、どのくらいのサイズなのかをモデル上で確認することができます。よければキャンセルボタンをクリックします。OKボタンは設定を適用させた上でダイアログを閉じます。適宜使い分けてください。

メッシュの作成

やっとメッシュを作成する準備が整いました。下図に示すパートのメッシュアイコンをクリックします。

プロンプトエリアに"パートをメッシュ分割しますか?"と聞いてきますので、"はい"をクリックします。

(参考)

ビュー/パート表示オプションにより、はり断面をレンダーするにチェック入れると、ビューポートにはり断面が表示されるようになります。

丸棒なので解りづらいですが、下図のように断面が表示されるようになります。

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解析ジョブの作成と投入

解析ジョブの作成

解析モデルが完成したので、解析ジョブを作成して計算を実行してみましょう。モデルツリーにおいて解析を展開してジョブの項が表示されるようにします。ジョブの項の右クリックメニューから"作成"を選択します。この時、ジョブモジュールに自動で切り替わります。

上記操作で現れる"ジョブの作成"ダイアログでジョブの名前を入力(デフォルトはJob-1)、モデルを選択(Model-1)します。デフォルトを受け入れる場合はそのまま、続けるボタンをクリックします。

続く"ジョブの編集"ダイアログでは色々設定はありますが、今回はすべてデフォルトで問題ありません。一応その他のタブの設定項目などを確認してOKボタンをクリックします。

モデルツリーに今定義した"Job-1"が追加されたことが確認できると思います。

ワーキングディレクトリの設定

解析結果のファイルやログファイルなどはワーキングディレクトリに作成されます。予め設定しておかないと、どこにファイルが保存されたのか解らなくなってしまうこともありますので一応設定しておきましょう。

ファイルメニューからワーキングディレクトリの設定を選択します。

"ワーキングディレクトリの設定"ダイアログにおいて新規ワーキングディレクトリに、ワーキングディレクトリに設定したい場所までのパスを入力します。ここで恐らく"選択"ボタンによってディレクトリを設定できるはずなのですがうまく設定することができません(バグ?)。したがって直接キー入力するか、エクスプローラーのアドレス欄からコピーして貼りつけるなどして入力してください。入力しましたらOKボタンをクリックして終了します。

上記は例です。ご自分の環境に合わせて入力してください。

解析ジョブの投入

モデルツリーにおいて、先ほど定義したJob-1の項の右クリックメニューから"ジョブの投入"を選択します(ジョブの名前を変更している方は適宜読み替えてください)。この操作で計算が実行されます。計算が実行中はジョブ名(Job-1)の横に"実行中"と表示され、計算が終了すると"完了"に変わります。

計算実行中(終了してからでも可)にジョブ名(Job-1)の項の右クリックメニューからモニタを選択しますと、実行中の経過を参照することができます。

下図がジョブモニタです。線形解析ではあまりメリットがないかもしれませんが、動解析中などではどの時刻まで計算が終了したかなどを参照することができます。エラーや警告なども参照できます。計算が終了すると"完了"と表示されます。

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解析結果の表示

結果ファイルの読み込み

モデルツリーにおいて、"モデル"タブから"結果"タブに切り替えます。

出力データベースの項の右クリックメニューから開くを選択します。その後、通常のwindowsの操作と同じようにファイルを選択するダイアログが現れますので、結果ファイル(*.odb)を選択して開きます。

結果表示モジュールに切り替わり、ビューポートには解析モデルが読み込まれて表示されます。ちなみに開いている"モデル"タブの方で開いている解析モデルとは無関係に結果表示操作は行うことができます。

変形図上のコンター図

まずは下図に示す"コンターを変形図にプロット"アイコンをクリックしてみましょう。デフォルトの設定で変形図、コンター図を表示してくれます。

デフォルトでは以下のような変位を表示する設定となっています。このようにアイコンをクリックするだけで簡単に結果を表示することが可能です。

その他の座屈モードを確認する場合は、結果メニューからステップ/フレームを選択します。ステップ/フレームダイアログにおいて、計算された座屈モードのリストが表示されますので、見たいモードを選択後、適用ボタンをクリックすることで結果をビューポート上に表示させることができます。

座屈モード1の固有値は1017.2となっています。今回荷重を1[N]で入力していますので、座屈荷重が1017.2[N]であることを示しています。これは前項のオイラーの式で計算した値に一致します。

それ以降の高次のモードについては、動的な荷重にって引き起こされる場合もありますが、多くの場合、最も座屈荷重の小さいモードが問題になります。構造によっては同じ座屈荷重で複数のモードが存在する場合もあります。次に示すホイスト式天井クレーンがその例です。

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(参考)ホイスト式天井クレーンの座屈解析事例紹介

参考にホイスト式天井クレーンの座屈解析結果を以下に示します。この構造では向って左側、上側、右側の部材が同じ大きさの圧縮力を受けていますので(参考:前項)、同じ座屈荷重で3つの座屈モードが存在します。

これらの座屈モードの固有値は0.1741でした。入力荷重は10000[N]なので、座屈荷重は1741[N]ということになります。前項のオイラーの式で計算した値は1762[N]でしたので、ほぼこれと一致します。

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