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考察:ホイスト式天井クレーン|Abaqusチュートリアル

(Abaqusバージョン:Abaqus 6.9 Student Edition)

本チュートリアルは単に操作方法の説明だけではなく、チュートリアルを通して技術を理解することを目的としています。前項までの内容は操作法や計算上の基礎知識など退屈な話が続きましたので、ここでは少し技術的な話をしたいと思います。

今回は、前項で説明したホイスト式天井クレーンの解析結果を少し分析してみます。

トラス要素の応力・軸力の確認

下図はトラス要素の軸方向の応力(S11)を表示した図です。各部材の応力値を読んで図中に記入しています。今回のモデルの場合の応力単位はmN/mm^2ですが、ここではN/mm^2(MPa)に読み替えています。

解析結果では引張側で73.5、圧縮側でも-73.5[N/mm^2]の応力が発生することが解ります。これに部材の断面積を乗じて軸力を算出すると、引張り側で5773[N]、圧縮側も同値で-5773[N]となります。

今回設定した材料は鉄鋼材料を想定していますので、73.5[N/mm^2]程度の応力レベルは強度上全く問題ないと考えられます。例えば降伏応力が245[N/mm^2]以上とJISで規定されているSS400とすると、降伏応力を基準とした静的な安全率は3以上あることになります。

(補足)

応力はS11成分を表示させています。S11はトラス要素の軸方向応力を表します。

また、結果オプションの設定で"節点で要素出力を平均する"のチェックを外し、平均化されないようにしています。

考察

本クレーンで持つ荷の重量の最大値が1t程度で、かつ動的な影響(急激に吊上げた時など)もせいぜい1.5G程度だとすると、今回解析したホイスト式天井クレーンのフレームの構造は安全率2以上ありますので強度的に全く問題がないと結論付けられることでしょう。実際のクレーンはもっと高い安全率を確保するかもしれませんが、少なくとも一発で壊れたりはしないと考えられます。

しかし、恐らくこの構造を実際に作ったとしたら、あっけなく壊れてしまうでしょう。実は線形静解析だけ実施していると見逃しがちなのですが、この構造では細長い梁を用いたトラス構造ですので、座屈という現象について十分検討する必要があったのです。

以下に示すの動画は試しに非線形解析で座屈する様子を解析したものです。

上記の計算では1682[N]で座屈が始まり崩壊してしまいました。

座屈荷重

今回の構造における座屈荷重を計算してみます。形状が単純ですので、式(7-1)に示す材料力学的な公式で簡単に計算することができます。座屈に関する説明はCAE技術情報局技術メモ:『座屈』を参照してください。

 ・・・(7-1)

Pk:座屈荷重、n:端末係数、E:弾性率I:断面二次モーメント、l:長さ

フレームを構成する部材はトラス要素ですので両端は回転支持となっています。したがって端末係数n=1です。丸棒の断面二次モーメントを求める公式は下式(7-2)です。

 ・・・(7-2)

上式に代入するトラス要素の各諸元は以下です。

  • 直径d:10mm
  • 長さl:1000mm
  • 弾性率E:210GPa(210000MPa)

結果だけ書きますと、座屈荷重Pkは1017[N]になります。FEMの解析結果からはトラス要素に5773{N]もの圧縮力が働くことが解りましたので、クレーンで荷を持つ前に容易に座屈を起こして壊れてしまうことが予測されます。注目すべきは応力的には全く問題ないにも関わらず、座屈によって壊れるということです。

ちなみにここで計算した座屈荷重はトラス要素一つ当たりの荷重ですので、持てる荷の重量に換算しますと、1017/5773*10000=1762[N]となり、先に紹介した非線形解析の結果1682[N]とほぼ一致します。完全に一致しない理由としては、非線形解析の方では座屈を誘発させるために1Gの重力による外力を与えているためです。これによりトラス要素に微小な曲げが発生し、理論的な座屈荷重以下で座屈してしまっています。(トラス要素は完全な軸方向荷重しか発生しないので、非線形解析を実施しても座屈しづらいという解析的な事情があります)。その他使っている要素やその分割数などの影響もあるかも知れません。

座屈安全率

座屈安全率はその名の通り座屈に対する安全率で、上式(7-1)で計算した座屈荷重Pkを部材に加わる圧縮力Pで除した値となります。座屈安全率に関する説明はCAE技術情報局技術メモ:『座屈安全率』を参照してください。

 ・・・(7-3)

Pk:座屈荷重、P:部材に加わる圧縮力

対応策

座屈を回避するためには座屈荷重Pkを大きくするしかありません。座屈荷重Pkを大きくするためには、断面二次モーメントIを大きくする、部材の長さlを短くする、などの対策方法が考えられます。

簡単な例として丸棒の直径を太くすることで対策を検討してみますと、d=15.5mm以上あれば座屈安全率が1以上になることが、式(7-1)、式(7-2)から容易に計算することができます。実際には円形断面に限らず、安全基準などに適合するような座屈安全率を確保し、生産性やコスト、重量なども満足するように断面形状を検討します。

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