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7.振動特性を考慮した構造設計の考え方|機械力学

実際の構造物における振動現象は、これまで説明してきた1自由度の振動のように単純ではありません。しかし、複雑な現象を1自由度の現象に置き換えて考えることで、問題の本質が理解し易くなり、検討中の構造物に振動的な問題があったとしても適切な対応が取れるようになります。本項では簡単な事例を元に振動特性を考慮した構造設計の考え方について説明します。

振動現象の原理・原則

これまで説明してきた内容は少々数学的なので、これを技術者にとって理解し易い言い方に変えてまとめてみます。

振動問題に関連した構造検討の内容には大きく分けて2種類あると考えられます。1つは振動を発生する装置をばねで支持する構造に関するもの。これは主に振動絶縁を主な目的としており、前項で説明した振動伝達率の考え方がそのまま適用できます。具体例を挙げると、エンジンとエンジンマウントの関係をイメージするとわかりやすいと思います。もう一つは振動を発生する装置を支えている側の振動特性に関するもの。これは受けた振動の力そのものは許容しますが、それを如何に増幅させないようにするかが鍵になります。具体例を挙げると、エンジンを搭載したフレーム側の振動特性に相当します。それぞれについて検討する場合のポイントについてまとめます。

@振動を発生する装置をばねで支持する構造を検討する場合のポイント

  • ばねで支持された装置の固有振動数は、振動源の周波数に対して少なくとも1/√2以下、十分な振動絶縁効果を得るには1/3以下になるようにする。ただし、減衰を大きくすると振動絶縁効果が悪くなる恐れがある(※)。
  • 固有振動数を低くするには、ばね定数を小さくする方法(Kを小さくする)、装置自体を重くする(mを大きくする)がある。
  • 振動源の稼動周波数範囲にどうしてもその装置の固有振動数が入ってきてしまう場合は、十分な減衰を与えることで、共振時の振動を抑えることができる。

※)速度依存の減衰の場合の話。ゴムのようなヒステリシス減衰を有する材料をばねとして用いる場合、β>√2での伝達率は減衰がない場合とほとんど変わらない。

この場合はエンジンマウントをイメージすると解り易いと思います。アイドリング状態の時の周波数はその系の固有振動数の少なくとも√2倍、十分な振動絶縁効果を得るには3倍以上離れている必要があります。また、エンジン始動時はどうしてもその系の固有振動数を通りますので、一瞬ですが共振は避けられません。その時の振幅を抑えるには減衰を加えるしかありません。

A振動を発生する装置を支えている側の振動特性を検討する場合のポイント

  • 振動を発生する装置を支えている側の構造(以後基礎と呼ぶ)の固有振動数は、基本的に装置の稼動振動数の範囲に入らないように基礎側の動的な剛性を検討する。一般には基礎側の振動数が装置の稼動振動数より高くなるようにする。(その逆の場合、基礎の剛性が低くなりすぎて、要求されるしっかり支える機能を満足しなくなる可能性があるため)
  • 基礎の固有振動数を高くするには、構造の剛性を上げる方法(Kを大きくする)、軽くする方法(mを小さくする)がある。
  • やむを得ず、装置の稼動振動数範囲に基礎の固有振動数が入ってきてしまう場合は、十分な減衰を与えることで、共振時の振動を抑えることができる。

この場合、エンジンをエンジンマウントを介して支えるフレームをイメージすると解り易いと思います。フレームが弱くては話になりません。できるだけ剛性を上げることでエンジンの周波数範囲にフレーム側の固有振動数が入らないように検討します。とはいえこれがなかなか難しく、特に音の領域までとなると、パネルの共振など避けられないくなる場合もあります。その場合は減衰効果を上げるために、制振材などを活用して共振時の振幅を抑える対策も施されます。

実際の構造において、振動のモード(形態)は複数存在しますが、複雑な振動現象でも、突き詰めれば個々の振動モードの重ね合わせとして表現されます。したがって、それぞれの振動のモードは独立に考えることができ、これまで説明してきたような1自由度の振動の考え方がそのまま適用できるのです。

解析例

@の場合について、6自由度剛体振動シミュレーションソフトウェア、PTMTマニュアルで紹介しているサンプルを例にして説明します。

解析モデル

まず解析モデル、下図は単純な立方体の質量要素を4つのばねで支持したモデルです。これをエンジンと想定してください。そしてこのモデル上の黄緑色の矢印がエンジンのクランク軸に加わるトルク変動の力と想定します。その他いろいろ矢印がありますが、ここではとりあえず無視してください。黄色の立方体が4つありますが、これがマウントになります。

ここではアイドリングの周波数として25Hzを想定します。したがってこの周波数でのエンジンの振動レベルが問題となります。

解析結果

このモデルのトルク変動によるエンジンの振動を解析した結果が以下です。縦軸はクランク軸に沿った座標軸(x軸)周りの回転角を表しています。横軸は周波数で1Hzから50Hzまで計算しています。

山が2つありますがこれはx軸周りの回転(Rx)成分を含んだモード(以後ローリングモードと呼びます)であり、6.5Hzと21Hzにあります。

この解析モデルではアイドリング周波数25Hzがローリングの固有振動数21Hzに対して√2倍以上離れていませんので、振動伝達率が1以上になり、振動絶縁の効果がなく、むしろフレーム側に増幅された力を伝達してしまっていることになります。おそらくこの状態で車両に搭載するとオペレータが感じる振動はかなり悪くなるのではないでしょうか。実際には車体の剛性その他も影響しますので、一概には言えませんが、振動絶縁を目的としてマウントを介しているのですから、このような設計はすべきではありません。

対策検討

では対策を考えたいと思います。一番簡単なのはばね定数を小さい値に設定して柔らかくすることです。しかしそれではちょっと芸がないですし、支持剛性の面で問題が出てきますので、ここではマウントの圧縮方向のばね定数とせん断方向のばね定数の違いを利用することで、ばね定数を変えずにローリング振動数を低くすることを考えます。一般にマウントとしてゴムを用いる場合、圧縮方向に対してせん断方向のばね定数が小さくなります。形状にもよりますが四角いブロック状の形状の場合、1/5程度にはなります。したがって、ローリング方向の変位に対して、マウントがせん断方向でその力を受けるようにマウントに傾斜をつけて配置すればよいことになります。

下図ではとりあえず30°の傾斜をつけて配置してみました。

このモデルにおいて解析した結果が以下です。縦軸にエンジンのローリング方向の回転角を、横軸周波数をとってプロットしています。

最大のローリング周波数は14.2Hzとなりました。とりあえず√2倍以上離すことはできました。アイドリング周波数25Hz時のエンジン振動についても、変位角で1/2以下(0.0023→0.0010)にすることができました。ということは振動加速度も1/2以下になったということになります。

実際には振動的な特性の他に支持剛性やマウントのひずみ(耐久性)など、その他たくさんの項目について詳細に検討して、配置やばね定数を決定します。あくまでサンプルですので、簡単に一例を紹介しました。

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