2.要素剛性マトリクス|FEMを体感しよう
構造解析の基本式
有限要素法構造解析では基本的にKu=fというバネの公式を用います(ここで、Kはバネ定数、uは変位、fは荷重)。ただし、その中身はマトリクスの形式で表されていて一見複雑ですが、やっていることはバネの公式と何ら変わりがありません。
・・・(2-1)
式(2-1)は有限要素法で最終的に解く式になります。変な括弧が付いている他はバネの公式と同一です。[ ]はマトリクスであることを表し、{
}はベクトルであることを表しています。
有限要素法では形状をたくさんの要素に分割します。逆にいえば、その要素の集合として全体の形状を表現しています。式(2-1)はこの要素一つ一つに対しても同様に成り立ち、それをモデル全体の要素について重ね合わせることにより、全体のマトリクス式(2-1)を形成します。
ここでマトリクスやベクトルの名称を説明します。[K]は剛性マトリクスと呼びます。要素一つについての関係を表す場合には要素剛性マトリクス、解析モデル全体について重ね合わせたものを全体剛性マトリクスと呼びます。{u}は変位ベクトルと呼び、それぞれの節点の変位になります。これは拘束条件の入力にも用いますが、解析で求める値そのものになり、コンピュータはこれを求めるためにCPU時間のほとんどを使用します。{f}は荷重ベクトルで荷重条件を設定した場合、各節点に対応した荷重値がここに入力されます。この辺の詳しいところは境界条件の設定の項で詳しく説明します。
ということでまずやることは、要素一つ一つに対して式(2-1)の関係を求めることです。これが使う要素によっていろいろ異なり、非常に簡単なものから複雑なものまでたくさんありますが、今回は図2-1のようなx軸方向だけに力を伝えるロッド要素もどきで計算をしてみます。
要素剛性マトリクスを求める
繰り返しになりますが、この要素で式(2-1)の関係を求めることが本項での目標です。この関係を求めるために以下の条件を利用します。
- 静的釣り合いの条件式
- ひずみと変位の関係式
- 応力とひずみの関係式
- 力と応力の関係式
- 変位と力の関係式
それぞれ順番に解いていきましょう。
式で使う記号
ε:ひずみ、σ:応力、その他は図2-1に示す通りです。
1.静的釣り合いの条件式
この要素は静的釣り合い状態にあって静止しているとすると、要素に加わっている荷重の総和は0でなければなりません。もし0でなかったらこの要素は加速度運動を始めてしまいます。したがって以下の式が成り立ちます。
・・・(2-2)
したがって、
・・・(2-3)
何とも当り前な式です。
2.ひずみと変位の関係式
ひずみの定義を知らないと式を立てられませんね。ひずみとは長さの変化量をもとの長さで割ったものです。長さの変化量とはつまりu2-u1です。よって、
・・・(2-4)
3.応力とひずみの関係式
これは材料力学ではじめに習うやつそのままです。ただし、x方向のみということを強調する意味で添え字にxを付けています。
・・・(2-5)
4.力と応力の関係式
その前に応力の定義を思い出しましょう。応力は力fをその力が加わっている面積Aで割ったものです。これをf1とf2で求めます。式(3)よりf2を基準とすればf1はマイナスになるので以下のような式になります。
・・・(2-6)
・・・(2-7)
5.変位と力の関係式
ここで式(2-6)に式(2-5)を代入したのが下式です。
・・・(2-8)
さらに式(2-4)を代入すると下式になります。
・・・(2-9)
これを展開してu1、u2について整理したのが式(2-10)です。これをf2についても計算したのが式(2-11)になります。
・・・(2-10)
・・・(2-11)
式(2-10)、式(2-11)をマトリクス形式で表すと下式(2-12)になります。
・・・(2-12)
これで式(2-1)の形式になりました。この式(2-12)が図2-1のロッド要素を表す式になります。念のため式(2-1)との対応関係を下図に示します。図2-2に示す[K]の部分が1次元ロッド要素の要素剛性マトリクスになります。
次項ではこの要素剛性マトリクス[K]を用いて全体剛性マトリクスを構成する方法を説明します。