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02-6.減衰について|動解析入門

減衰とは

減衰とは一般に材料や構造物が繰り返し荷重や振動荷重を受けた時に生ずるエネルギーの散逸現象です。多くは熱エネルギーに変換することにより、運動エネルギーを散逸させています。

減衰が生ずるメカニズムは複雑であるため、その詳細をモデル化することはできません。したがって解析上は数種の簡易的な方法でモデル化されることが多いです。

動解析で用いられる減衰の種類

動解析で用いられる減衰には主に以下の4種類があります。

それぞれ簡単に説明していきます。

粘性減衰

粘性減衰は主に粘弾性体で生じる減衰で、速度に比例した減衰力を発生します。

 ・・・(2-6-1)

{fC}:粘性減衰力、[C]:減衰マトリクス、
{x}:変位ベクトル(上部に付いているドットの数はその微分の階数を表す)

粘性減衰は振動理論の話で必ず出てくるのでお馴染みですね。

構造減衰

構造減衰はヒステリシス減衰とも呼ばれ、変位に比例した(あるいは剛性に比例した)減衰力を発生します。粘弾性体以外の多くの材料、特に金属材料では構造減衰としてモデル化した方がよいといわれます。素材としての減衰だけでなく、アセンブリされた構造全体の減衰特性を表現するのにも適しています。

これを式で表すと下式のようになります。

 ・・・(2-6-2)

{fG}:構造減衰力、i:虚数単位(位相が90°遅れていることを表す)、
G:構造減衰係数、[K]:全体剛性マトリクス、{x}:全体変位ベクトル

式(2-6-2)は動解析の基礎方程式における剛性項と同じ形式となることから、剛性と減衰に用いられる剛性マトリクスを合わせて下式のように表記することがあります。

 ・・・(2-6-3)

上式(2-6-3)を複素剛性と呼びます。

レイリー減衰

レイリー減衰はもともと計算を安定化させるために考案された減衰であり、実際の現象を再現させるためのものではありません。また、パラメータの取り方によっては [C]を対角化させることができるため、モード法や陽解法の計算に都合がよいという理由もあります。いわば解析上の都合だけで定義された仮想的な減衰と言えます。

 しかし、モード減衰比が使えない直接法の解析において、着目している周波数範囲の減衰をモード減衰比として大まかに指定できるメリットがあるので多用されます。

定義としては下式のようになります。

 ・・・(2-6-4)

[C]:全体減衰マトリクス、[M]:全体質量マトリクス、[K]:全体剛性マトリクス、α,β:係数

右辺第1項が質量マトリクスによる減衰、第2項が剛性マトリクスによる減衰を表します。

レイリー減衰によって発生する力は

 ・・・(2-6-5)

{fR}:レイリー減衰力、[M]:全体質量マトリクス、[K]:全体剛性マトリクス、
{x}:全体変位ベクトル(上部に付いているドットの数はその微分の階数を表す)、α,β:係数

係数α、βとモード減衰比との関係は以下のようになります。

 ・・・(2-6-6)

ζ:減衰比、ω:各速度、α,β:係数、i:i番目の固有モードを表す

レイリー減衰は式(2-6-6)で明らかなように、低い周波数ではαが、高い周波数ではβが支配的になるような性質があります。これを使い分けて解析上不要な振動成分をフィルタリングすることができます。

また、ある周波数範囲のモード減衰比を指定したい場合については以下のような手順でαβを同定します。

まず着目している角速度範囲をω1〜ω2としたとき、角速度ω1の時のモード減衰比をζ1、角速度ω2の時のモード減衰比をζ2として式(2-6-6)に代入すると、式(2-6-7)および式(2-6-8)となります。

 ・・・(2-6-7)

 ・・・(2-6-8)

これらの式を連立してα、βについて解きますと以下のようになります。

 ・・・(2-6-9)

 ・・・(2-6-10)

この方法で求めたαβを用いることでω1〜ω2の範囲におけるモード減衰比がζ1〜ζ2となるように設定することができます。ζ1とζ2に同じ値を用いれば着目範囲でほぼ一定のモード減衰比を設定することができます。ただしこの方法で求めたζの分布は曲線的になるため、必ずしも狙った減衰比を定義できるわけではありません。実際に使う場合には注意が必要です。

モード減衰

モード減衰はモード法を用いたときに利用できる減衰で、振動現象を固有モードごとに分解したとき、各固有モードに発生する減衰を個別に定義したものです。減衰の種類は粘性減衰、構造減衰を問いません(各固有モードに固有の減衰なので周波数依存か剛性依存かは関係ない)。使用するソルバにもよりますが、Nastranの場合、モード減衰比構造減衰係数Q値を用いてモード減衰を設定することができます。

一般的にはモードごとの減衰比を用いて定義することが多いです。ここで減衰比の定義を少し復習しますと下式のようになります。

 ・・・(2-6-11)

C:粘性減衰係数、CC:臨界減衰係数、m:質量、k:ばね定数、ζ:減衰比

つまり減衰比は、粘性減衰係数と臨界減衰係数の比として定義されています(詳しくは機械力学4.減衰自由振動の項で説明していますので参考にしてください)。ある固有モードiに着目した時のモード減衰比はζiというように表記します。

ある固有モードiに着目したときのモード減衰比(ζi)、構造減衰係数(Gi)、Q値(Qi)の関係は以下にようになります。ただしQ値に関しては近似値であり、減衰比ζが十分小さいときにのみ成り立ちます(目安としてζ=0〜0.3程度)。

 ・・・(2-6-12)

ζ:減衰比、G:構造減衰係数、Q:Q値、i:i番目の固有モードを表す

Q値についての解説はこちらを参照ください。

その他の減衰

摩擦による減衰

その他の減衰の要因としては、摩擦減衰があります。摩擦減衰は接触と摩擦を定義することでモデル化されますが、接触は非線形現象ですので、線形の動解析では考慮することができません。摩擦を考慮した動解析をするには非線形の動解析を実施する必要があります。これにより摩擦はもちろん、材料非線形性や大変形なども考慮した解析が可能になります。

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