2.乱流解析|流体解析入門
層流と乱流
流体の流れ場においてスムーズで規則的な流れの状態を層流と呼びます。粘性が大きい流体や非常に小さなスケール(血管内の流れ等)の流れは層流になることが多いです。
逆に不規則な流れの状態は乱流と呼ばれます。粘性が小さく、スケールの比較的大きな物の流れは乱流になることが多いです。例えば空気の流れ、川の流れなど、私たちの身の回りの流れの多くは乱流となります。したがって乱流をどう扱うかが流体解析では非常に重要なファクターです。
レイノルズ数
層流か乱流かを判断するにはレイノルズ数 という指標が用いられます。レイノルズ数の定義は下式です。
・・・(2-1)
U:代表流速、L:代表長さ、ρ:密度、μ:粘度(粘性係数)
または動粘度を用いた表現ですと下式のようになります。
・・・(2-2)
U:代表流速、L:代表長さ、ν(=μ/ρ):動粘度
Reの分子は慣性力の影響を表し、分母は粘性力の影響を表します。一般にReが小さい(粘性の影響が卓越)と層流、大きい(慣性の影響が卓越)と乱流となります。例えば円管流れではRe=2300〜4000を境に層流から乱流に遷移するとされています。
乱流モデル
乱流という現象は流体の支配方程式であるナビエ-ストークス方程式を直接解くことによって再現できるのですが、実際に流体解析ソフトウェアを用いて解析しようとすると、乱流に含まれる小さな渦まで解像させる必要があるため、非常に細かなメッシュが要求されます。このため現在のコンピュータの能力をもってしても、これを現実的な時間で解くことは難しいでしょう。そこで一般的には乱流という現象を簡易的にモデル化する手法が用いられます。これを乱流モデルと言います。これにより大幅に計算時間を短縮することができます。
乱流解析の種類
乱流を含む流れ場の解析の方法には、乱流モデルのようなモデル化をしないものも含めて以下のような種類があります。
DNS (Direct Numerical Simulation)
DNSはナビエ-ストークス方程式を直接解く手法で、何らモデル化をしていないため計算精度は良いですが、非常に細かなメッシュが必要になり計算時間が膨大となります。恐らくこの手法を開発現場で実務的に利用しているところはほとんどないと思われます。主に研究分野で用いられます。
LES (Large Eddy Simulation)
LESは大きなスケールの渦については直接計算し、小さなスケールの渦についてはモデル化を行う手法です。これも非常に計算時間がかかりますが、DNS程ではなくスパコンなどを使って並列計算すれば活用できるレベルになってきていると言われます。
RANS (Reynolds Averaged Navier Stokes)
RANSは流速を平均成分と変動成分に分解し、これをナビエ-ストークス方程式に組み込むことで得られる平均化された方程式を解く手法です。必要なメッシュが少なくて済み、計算も早いです。そのため多くの設計開発現場で活用されています。しかしモデル化に際して想定される仮定によって再現できる現象に限界があります。モデル化の特性を理解した上で利用しないと、大きな間違いをする場合があるので注意が必要です。
DES (Detached Eddy Simulation)
DESは壁面近傍ではRANSで解析し、それ以外はLESの手法を用いて解析する手法です。壁面付近の細かなメッシュが不要になるので、LES単独の手法に比べて計算負荷を抑えることができます。この手法についても計算時間がかかりますが、スパコンの並列計算を用いて開発現場でもよく利用されるようになってきました。